日本口蓋裂学会雑誌
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圧変化よりみた各種機能時の鼻咽腔部閉鎖動態に関する研究
第1報閉鎖圧測定方法について
上田 昇
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1977 年 2 巻 1 号 p. 1-11

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抄録
鼻咽腔閉鎖は軟口蓋の挙上運動,咽頭後壁の前方運動,左右咽頭側壁の内方運動が立体的に組み合わされてなされる複雑な機構である.それゆえ,同部の本態の解明,さらには口蓋裂患者の鼻咽腔閉鎖機能の診断及び治療に際し,鼻咽腔各部の閉鎖動態を直接,個々に,かつ同時に,客観的に把握する必要がある.以上の観点から,Speechaid装着患者を対象に,Speechaidのbulbの軟口蓋面,咽頭後壁面, 左右咽頭側壁面の4面にストレンゲージを貼布し,鼻咽腔各部の閉鎖圧を測定する方法を考案した.第1報として, 圧トランスジューサーの特性,鼻咽腔部の温度変化の測定,及び1被験者の各種機能時の圧測定を行った予備実験の結果を報告した.
1.使用した圧トランスジューサー(KFC-1-C1-11,共和電業)の特性曲線は室温(18℃),35℃ の2条件下で共に直線を示し,かつ両者間には有意差は認められなかった.
2.実験装置は被験者の固有生理運動を障害せず,違和感もなく各機能時に同期して鼻咽腔各部の閉鎖圧を個々に測定し得た.
3.鼻咽腔部の温度は安静鼻呼吸時,冬種機能時で変化せず・恒温状態を示し・4例の測定結果は34℃ -36℃ の間であった.
4.鼻咽腔部の閉鎖圧は嚥下では発声より大きく,子音バ行では母音より大きな圧を示した.
5.発声と閉鎖運動との時間差(圧起始と音起始の時間差,音起始と圧最大の時間差)についても計測し得た.
6.以上の結果,本法は鼻咽腔各部の閉鎖動態を圧の面からも,時間的な面からも客観的に,個々に把握が可能で,鼻咽腔閉鎖機能の本態の究明,さらには口蓋裂患者の鼻咽腔閉鎖機能診断,及び治療にあたり,きわめて有用な方法であることが認められた.
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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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