抄録
片側性完全口唇口蓋裂(UCLP)患者のうち,乳歯列期から早期矯正治療を行った症例の治療効果を形態学的に分析し,口唇口蓋裂症例の早期矯正治療に関する検討を行った.対象は,本学歯学部附属病院矯正科に来院したUCLP患者で,乳歯列期の反対咬合者のうち,乳歯列期から歯科矯正治療を開始したUCLP症例(+群)8名と,乳歯列期に歯科矯正治療を行っていないUCLP症例(-群)7名とした.両群とも,Hellmanの歯齢II C~III A期,平均年齢6歳(5~7歳)で,男女の側面頭部X線・規格写真と口腔模型を資料として分析し,以下のような結果を得た.
1.上歯列弓の前方ならびに側方への拡大を行った結果,+群に上歯列弓長径および上下歯列弓幅径の有意な拡大とoverjetの有意な改善が認められた.また+群には,正中偏位および歯列の対称性に改善がみられた.
2.側面頭部X線規格写真の分析において,有意な両群の差は認められなかったが,Ptm´-A´(FH),SNA,Angle of convexityは+群に改善傾向がみられた.
3.側面頭部X線規格写真の軟組織の分析において,+群には上唇の陥凹感の改善傾向がみられた.
乳歯列期からの矯正治療効果として,上顎骨,上下歯列弓および歯槽基底部や軟組織側貌に改善が認められたが,長期的な観点から早期治療の効果とその意義についての評価を下すためには,今後も継続して治療と観察を行う必要があると考えられる.