抄録
上顎の低形成,口膣鼻痩孔,顎裂部骨欠損および裂部粛牙離開を伴った成人の唇顎口蓋裂患者6人(片側5人・両側1人)に,顎裂閉鎖と上顎前方移動を同時に行うPosnickのLe Fort I上顎骨切り術を施行した.本手術法の一番の特徴は,顎裂部で2つのセグメントを接合させ,裂部の隣接歯牙を接触させるように上顎骨を移動させることである.全患者で骨切り移動によって生ずる骨裂隙,裂側鼻膣底あるいは顎裂部に腸骨海綿骨の移植が同時に行われた.上下顎の不均衡が著しい5人の患者には下顎矢状分割骨切り術が同時に行われた.
口膣鼻痩孔はすべての患者で完全閉鎖できた.7顎裂中6顎裂で顎裂部に移植骨による十分な骨架橋ができた.裂部歯牙離開はすべての患者で外科的に閉鎖され,補綴処置を要したものは無かった.すべての患者で正の水平被蓋咬合を獲得でき,5人の患者で正の垂直被蓋を獲得できた.1人では同時骨切りした下顎枝の固定が十分できなかったため垂直被蓋が中間位となった.
本手術法により,顎裂は狭くなり,裂部を被覆する粘膜骨膜弁にゆとりができるので,顎裂部移植骨の生着が安定し口膣鼻痩孔を確実に閉鎖できるものと考える.裂部での歯牙離開が手術により無くなるので,顎裂部に補綴処置をする必要がない.本手術を用いた治療法は,これら顎裂に起因する問題点と咬合,および顔面の審美的な問題点を一回の手術で解決することができ,患者の精神的,時間的,経済的負担を軽減する方法と考える.