日本口蓋裂学会雑誌
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第皿因子抗体発現血友病Aを伴う唇顎口蓋裂患者に対する口蓋裂手術の経験
畠 真也横山 朋子佐野 法久井川 浩晴杉原 平樹
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2001 年 26 巻 1 号 p. 1-6

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抄録

血友病A患者の一部では,過去に血液凝固第VIII因子の補充療法が行われた場合,第皿因子の凝固活性に対する阻害抗体が発現し止血が困難となる.今回我々は,初回口唇形成術後の第皿因子製剤投与のため第皿因子抗体を産生した血友病A患者に対し,第VIII因子バイパス療法を併用した口蓋裂手術を経験し若干の知見を得たので報告する.
症例は1歳7カ月の男児で,生下時より左唇顎口蓋裂を認めた.4カ月時に口唇形成術を施行したが,術後出血の遷廷があり精査の結果血友病Aと診断され,血液凝固第VIII因子製剤を投与し止血出来た.しかしその結果第皿因子抗体の発現を見た.
今回口蓋形成術を計画するに当たり,第VIII因子製剤の無効化が確認されたため,事前に乾燥人血液凝固第IX因子(PCC)の必要量を定量後,push backとvomer flapを採用する口蓋形成術を施行した.PCCを手術前より使用していたが,術後翌日より骨露出部から出血し,徐々に出血のコントロールができなくなってきた.よって活性化プロトロンビン複合体(APCC)を使用することとし,その上で術後5日目に再手術を行いvomer flapを戻した.その後,APCCとPCCを交互に点滴することにより出血はおさえられ,術後37日目に退院した.
現在までに,第皿因子抗体発現症例に対する外科的治療は,抜歯など比較的侵襲の少ないものが報告されているのみであり,今回の様に大侵襲の手術は,術後の出血傾向が未知数であった.事前にPCCの点滴6時間後に,APTTが最短で86秒になるのを確認し手術に望んだが,出血をコントロール出来た時には50秒台であった.しかしPT・APTTの短縮度と臨床効果との間に有意な相関関係は認められないという報告もあり,やはり実際は臨床症状とつきあわせて,臨機応変にPCCとAPCCの投与量を決定していくべきと考えられた.

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