抄録
本研究は,唇裂患者哺乳時上唇運動の口唇形成手術前後の変化を検討した。鹿児島大学歯学部附属病院第二口腔外科にて口唇形成一次手術を施行した片側性唇顎口蓋裂患者9名(UCLP群)片側性唇(顎)裂患者6名(UCL群)および正常乳児8名(正常群)を対象とした。直径8mmの表面電極2個を1対としてそれぞれ患側と健側の上唇に貼付し双極誘導し,哺乳時の口輪筋筋電図を測定分析した。測定は,UCLP群,UCL群では,術前,術後1か月,3か月に,正常群では生後4か月(UCLP群,UCL群の術前に相当),生後7か月(UCLP群,UCL群の術後3か月に相当)に行った。乳首内圧迫圧,口腔内吸畷陰圧を同時に測定し以下の結果を得た。
1.UCLP群は術前の患側,健側の筋活動最大値,総筋活動量ともに正常群に比べ有意に低く,患側は健側より有意に低値であった。術後は患側,健側の筋活動最大値,総筋活動量ともに術前に比し有意に上昇し,健側の筋活動最大値と総筋活動量は正常群と有意差がなくなった。患側の筋活動最大値は健側および正常群と有意差がなくなったが,総筋活動量は健側および正常群に比べ有意に低値であった。
2.UCL群は術前の患側,健側の筋活動最大値,総筋活動量ともに正常群に比べ低い傾向を認めたが有意差はなく,患側は健側より低い傾向を認めたが有意ではなかった。術後は患側および健側の筋活動最大値と総筋活動量は術前に比し有意に上昇し,正常群と同程度となった。
3.UCLP群,UCL群とも乳首圧迫のリズムは正常群に近似していたが,UCLP群では術前の患側筋活動最大時点が正常群より有意に遅かった。術後は患側,健側ともに有意に早くなり正常群に近似した。UCL群では術前,術後とも正常群と類似していた。