抄録
口蓋裂術後の鼻咽腔閉鎖機能の評価は,口蓋裂言語療法の計画の立案に際し,重要である.しかしながら,口蓋裂術後の鼻咽腔閉鎖機能の評価において,評価結果が異なる場合がある.本研究では,口腔内圧の異なる動作で鼻咽腔閉鎖機能の評価を行い,口蓋裂患者の鼻咽腔閉鎖機能不全の病態を分析した.
対象は,九州大学病院顎口腔外科にて口蓋形成術を受けた口唇・口蓋裂症例42例(片側性唇顎口蓋裂19例,両側性唇顎口蓋裂11例,粘膜下口蓋裂7例および口蓋裂単独5例)である.鼻咽腔閉鎖機能は,blowing時,子音/∫/および母音/i:/産出時での3動作時の鼻息鏡検査の呼気鼻漏出の有無に基づいて4グループ(1:全ての動作で鼻漏出を認めない群,2:母音産出時にのみ鼻漏出を認める群,3:子音および母音産出時に鼻漏出を認める群,4:全ての動作で鼻漏出を認める群)に分類された.各グループにおけるblowing ratio,ナゾメータ検査での開鼻声値を求め,さらに側面頭部X線規格写真における鼻咽腔形態と軟口蓋の動きを評価し,各グループの鼻咽腔閉鎖状態を比較した.
結果,動作別にて呼気鼻漏出にて分類した各グループの人数は,グループ1が23名,グループ2が6名,グループ3が7名,およびグループ4が6名であった.鼻咽腔形態と軟口蓋の動きに関して,グループ1では軟口蓋の長さは長く,動きがよい,グループ2は軟口蓋の動きが悪い,グループ3は軟口蓋の長さが短い傾向であるが,動きが良い,グループ4は軟口蓋の長さが短く,動きも悪いという特徴を有していた.
以上の結果より,鼻咽腔閉鎖機能を動作別に評価することは,口蓋裂術後の鼻咽腔閉鎖機能不全の病態を知り,言語療法の指針を定める上で有用であると思われた.