抄録
唇顎口蓋裂患者の上顎部に発育不全の多くみられることは周知の事実であり,その原因として,口唇口蓋形成術による影響が大きいといわれている.そこで著者は幼若家兎に1)生理的上唇裂閉鎖術,2)片側顎間骨・上顎骨・骨膜剥離術,3)生理的上唇裂閉鎖および両側顎間骨・上顎骨・骨膜剥離術,4)片側上唇側方部一部切除術を施行し,頭部X線規格写真によって,これら手術が顎顔面頭蓋の成長発育に及ぼす影響を検索するとともに,咬合および顎間骨上顎骨骨面の変化を観察した.その結果,次の如き所見を得た.
(1)生理的上唇裂閉鎖術群では上下顎骨部ともに,軽度の前方成長抑制と下方への過成長がみられた.また本手術群では反対咬合が8例中1例にみられた.
(2) 片側顎間骨・上顎骨・骨膜剥離術群では上顎部が手術側に向かって軽度の弩曲を示し,上顎部の前方成長抑制,軽度の下顎骨前方成長抑制,上下顎骨部の下方への過成長などがみられた.本手術群では反対咬合は1例もみられなかったが,手術部骨面は多孔質化と肥厚をきたし,顎間骨上顎骨縫合部の一部に癒合がみられた.
(3)生理的上唇裂閉鎖および両側顎問骨・上顎骨・骨膜剥離術群では上下顎骨部ともに,かなり強い前方成長抑制と下顎骨前方部の下方への過成長が認められた.本手術群では術後早期から切端咬合ないし反対咬合が出現し,正常咬合を呈したものは11例中1例にすぎなかった.
(4)片側上唇側方部0部切除術群では上顎部の弩曲はみられなかったが,上下顎骨部の前方成長抑制を思わせる所見が認められた.