抄録
鼻咽腔閉鎖機能診断への超音波検査法の応用を目的とし,正常成人を対象に,超音波リアルタイム方式およびMモード法による咽頭側壁運動の観察方法について基礎的検討を行い,以下の結果を得た.
1)鼻咽腔閉鎖部位と超音波の入射方向について,正面および側面頭部X線規格写真の分析を行い,咽頭側壁の最大運動部位は,軟口蓋と咽頭後壁間の閉鎖部位と同一の高さで,外耳孔の前方に位置している事が判明した.
2)側方から上記の咽頭側壁像を描出するためには,超音波の入射は下顎枝後縁と乳様突起の問からとなり,前額面に対して10.-16.,眼耳平面に対して18-20.の入射角度を必要とした.
3)咽頭側壁の超音波リアルタイム像は各機能時に特有の運動所見を示したが,これは正面頭部X線テレビにおける所見と0致していた.
4)/a/発声時,咽頭側壁上方が正中へ偏位し,上方の突出した弧状の形態を示し,/i/発声時には,上方部の偏位とともに下方部の挙上運動を認め逆S字状の形態を示していた.
5)ブローイングでは発声時と同様の運動様式を示したが,嚥下では発声時と異なり,咽頭側壁全体にわたる複雑で大きい運動が観察された.
6)Mモード法で得られた咽頭側壁の時間一偏位曲線からは各機能時における咽頭側壁の量的変化,時間の計測が可能であった.
7)咽頭側壁の偏位量は各機能で明らかな差を認め,嚥下>破裂音・ブローイング>母音>鼻音の傾向を示していた.
8)発声時,咽頭側壁の運動開始は音起始に先行し,最大運動位への到達は母音では音起始に遅れ,破裂音では先行していた.
9)咽頭側壁の閉鎖時運動速度は鼻音で母音,破裂音に比し小さい傾向を示していた.
10)嚥下所要時間は平均1341msecであった.