Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
GABAB receptor autoimmune encephalitis presenting as transient epileptic amnesia
Satoko OagawaYuto UchidaShin KobayashiKoji TakadaKiyohito TeradaNoriyuki Matsukawa
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2021 Volume 61 Issue 1 Pages 6-11

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要旨

症例は50歳の健常女性.一過性の健忘を繰り返した後,強直間代性痙攣が出現し,当院に搬送された.頭部MRIで左側頭葉内側にFLAIR高信号,脳波で左側頭部を起始とするてんかん性放電が確認され,急性辺縁系脳炎に伴う側頭葉てんかんと診断した.健忘発作時に記憶以外の高次脳機能は保たれており,臨床症候から一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia,以下TEAと略記)と考えられた.中年女性に初発した原因不明の急性辺縁系脳炎であり,自己免疫性脳炎を念頭に免疫療法を施行し,健忘は消失した.後日,髄液中の抗GABAB受容体抗体陽性と判明した.本症例は,GABAB受容体の機能障害により,TEAが惹起された可能性を示唆する貴重な症例である.

Abstract

This case was a 50-year-old healthy woman. After repeated transient amnesia, she developed tonic-clonic seizures and was admitted to our hospital. The brain MRI showed FLAIR hyperintensities in the left temporal lobe and EEG showed an epileptic discharge starting from the left temporal region. Based on these findings, we diagnosed temporal lobe epilepsy associated with acute limbic encephalitis. While she experienced recurrent transient amnesia, her cognitive functions were preserved except for her memory. These symptoms and EEG findings were consistent with transient epileptic amnesia (TEA). Acute limbic encephalitis that occurred in a healthy middle-aged woman may be antibody-mediated encephalitis, requiring immediate immunotherapies. In this case, GABAB receptor antibodies in cerebrospinal fluid were found positive. This is the first report showing that TEA was caused by GABAB receptor autoimmune encephalitis.

はじめに

神経細胞表面抗原に対するIgG型自己抗体を有する自己免疫性脳炎の報告が相次いでいる1.自己抗体の種類により特有の臨床症状が出現することが知られているが,抗GABAB受容体抗体陽性の自己免疫性脳炎は,痙攣発作の他,記憶障害が前景に立つ2)~4.一方,一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia,以下TEAと略記)は,短時間の健忘エピソードを繰り返す焦点発作の症状であり5,臨床的には一過性全健忘や認知症との鑑別が重要である.近年,このTEAの症候がGABAB受容体の機能障害で生じることが指摘されている6.我々は,TEAに引き続いて痙攣発作を引き起こし,髄液検査で抗GABAB受容体抗体陽性と判明した自己免疫性脳炎の1例を経験した.GABAB受容体は記憶形成に関与するが,その機序を考察するうえで貴重な症例と考えられた.

症例

症例:50歳,女性

主訴:一過性の繰り返す健忘

既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.

職業:コンビニエンスストアの店員.

現病歴:4月下旬,職場に向かう途中にどこに行くのか忘れてしまい,仕事の予定が入っていたことを忘れてしまうことが一度あった.その後は普段通り就労し,家庭内でも変化はなかった.5月上旬,再度短時間の健忘が繰り返し出現した.数時間前の出来事が想起できないことを自覚していたが,健忘以外に症状がなく,近医受診後も経過観察されていた.その数日後に,奇声を発し夜間に徘徊するという異常行動があり,強直間代発作に進展したため,救急搬送された.経過中,先行感染を示唆するエピソードはなかった.

入院時現症:身長153.0 cm,体重50.9 kg,体温37.5°C,血圧100/54 mmHg,心拍数64回/分,SpO2 99%であった.全身に散在する10 mm大の淡紅色,弾性軟丘疹を認め,掻痒感を伴っていた.その他,特記すべき一般理学所見はなかった.神経学的所見としては,意識清明,項部硬直およびKernig徴候は認められず,脳神経に明らかな異常はなかった.また,四肢に明らかな麻痺はなく,筋緊張は正常であった.腱反射は正常で病的反射は認めなかった.感覚系および協調運動に異常は明らかになかった.血圧の変動,発汗異常あるいは排尿障害などの自律神経障害は明らかでなかった.入院時から前向性健忘を持続的に認めた.逆行性健忘も併存し,家族構成や職場など自身に関連する数十年の記憶ならびに,震災や総理大臣などの社会的出来事に関しても想起困難であった.Mini-Mental State Examinationは計算,遅延再生,復唱で失点し22点であった.標準言語性対連合学習検査では有意味関係対語9-9-10,無意味関係対語0-1-0,Rey複雑図形検査では模写36/36,即時再生10.5/36,遅延再生10/36であり,言語性記憶および視覚性記憶の低下は認めたが,その他の高次脳機能は正常であった.その他,特記すべき異常所見は認めなかった.

検査所見:血算は,明らかな異常はなかった.一般生化学では,アンモニアの上昇を認めたが,ピルビン酸および乳酸の上昇はなかった.β-D-グルカンは陰性であった.抗TPO抗体,抗Tg抗体,抗核抗体,抗ds-DNA抗体,抗SS-A/Ro抗体,P-ANCA,C-ANCAはいずれも陰性であった.肺小細胞癌の腫瘍マーカーであるCEA,ProGRP,NSEは陰性であった.脳脊髄液検査では,外観は無色透明,髄液圧10 mmH2O,細胞数12/mm3(単核球97%),蛋白26.9 mg/dlと,リンパ球の軽度上昇を認めた.また,髄液中IL-6は130 pg/mlと上昇していた.一般培養は陰性で,髄液中ADA,単純ヘルペスDNAはPCR法で陰性であった.水痘・帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルスのIgGおよびIgM抗体は陰性であった.胸部・腹部造影CTでは腫瘍性病変を認めなかった.特に肺小細胞癌に関しては胸部高分解能CTで,卵巣腫瘍に関しては経腟超音波検査で腫瘍性病変の検索を行ったが,特筆すべき所見を認めなかった.

頭部MRI(Philips社製,Ingenia 3.0 T)では,左側頭葉内側にFLAIR画像,拡散強調画像で高信号を示す病変があり,造影T1強調画像で増強効果を伴っていた.同部位は,Arterial spin labeling(Post labeling delay: 2,000 msec)で血流亢進所見を呈していた(Fig. 1).脳波所見は,Fig. 2に示す.記録中に突然,左側頭部を中心に律動性で連続したシータ帯域の徐波が出現した(Fig. 2A).引き続き,シータ帯域の徐波は持続し,左側頭部から左前頭部へと範囲が広がった(Fig. 2B).これらの律動的な活動が停止した後,周期的な鋭波が出現した(Fig. 2C).鋭波は頻度を増した後,突然中断し,もとの睡眠脳波が再開した(Fig. 2D).この一連の所見から,左側頭部を起始とするてんかん性放電と考えられた.同様の所見は,30分間の検査中に2回現れた.検査中,明らかな痙攣発作はなく,意識は清明であったが,前向性健忘および逆行性健忘は続いていた.皮膚生検では,小結節状の末梢神経束が増生・多発しており,病理学的に神経腫と診断されたが,末梢神経束周囲にはBリンパ球優位の浸潤がめだち,紡錘形細胞の増生巣も散見された(Fig. 3).

Fig. 1 MRI on the day of admission.

(A, B) MRI scans were acquired from the patient using a 3-tesla MR system (Ingenia, Philips) on the day of admission. The FLAIR showed hyperintensity signals in the left hippocampus. The same region had an enhancement in the gadolinium-enhanced T1-weighted image (arrows). (C) The diffusion-weighted imaging also showed hyperintense signals in the left hippocampus (arrow). (D) The arterial spin labeling (Post labeling delay: 2,000 msec) showed left hippocampal hyperperfusion (arrow).

Fig. 2 EEG on the day of admission.

(A) A continuous rhythmic theta range activity begins at the left temporal lobe (blue arrows). (B) The theta range activity evolves to the left frontal lobe. (C) After these epileptic discharges ceased, periodical sharp waves appeared (red arrows). (D) The periodical sharp waves increased (red arrows) and suddenly stopped. Then, the conventional alpha-beta range activities restarted.

Fig. 3 Skin biopsy specimens obtained from the cutaneous rashes.

(A, B) The peripheral nerves were hyperplastic in the dermis, which suggest neuroma. And mononuclear cells without atypia infiltrated around the nerves. (C) CD20-positive lymphocytes predominantly infiltrated. (D) Immunohistochemical analysis revealed intense positivity for S-100 protein. (A, hematoxylin and eosin staining, scale bar = 500 μm; B, hematoxylin and eosin staining, scale bar = 100 μm; C, CD20 immunostaining, scale bar = 100 μm; D, S-100 immunostaining, scale bar = 100 μm).

入院後経過(Fig. 4):入院前から一過性の健忘が数日をおいて繰り返し出現し,脳波で左側頭部を起始とするてんかん性放電を認めたため,焦点発作の症状としてTEAを呈する側頭葉てんかんと診断した.入院時の脳波検査では,発作時脳波が短時間で繰り返し現れており,持続的に健忘が生じていたため,てんかん重積に準ずる状態と判断した.入院後,レベチラセタム1,000 mg/日およびスチリペントール2,000 mg/日の投与を開始した(倫理審査委員会承認番号65,2019年1月15日).頭部MRIで左側頭葉内側に異常信号を認め,髄液検査で軽度のリンパ球増加を伴っていたため,側頭葉てんかんは急性辺縁系脳炎に起因していると考えられた.中年女性に初発した原因不明の急性辺縁系脳炎であり,ヘルペス脳炎の他,自己免疫性脳炎が鑑別に挙がった.入院3日目より,アシクロビル500 mg/日に加えて,免疫療法としてメチルプレドニゾロン1,000 mg/日を3日間,免疫グロブリン400 mg/kg/日を5日間,点滴静注した.免疫グロブリンは難治性てんかん重積に対して初期からの投与が推奨されており7,また,自己免疫性脳炎を疑う場合では早期での投与で神経学的予後に改善があるとされているため8,その使用方法に準拠した.適応外薬剤の使用(スチリペントール,免疫グロブリン)に関しては,患者と家族の同意の上で投与した.免疫療法および抗てんかん薬使用後,健忘症状は改善した.神経学的異常所見の改善と一致して,MRIでの異常信号は消失し,脳波ではα波を主体とした背景活動が出現と発作頻度の減少を認めた.後日,Barcelona大学のDalmau Labに依頼していた神経細胞表面抗原に対するIgG型自己抗体の結果から,髄液中の抗GABAB受容体抗体が陽性であることが判明した.抗NMDA型GluR複合体抗体,抗LGI1抗体および抗Caspr2抗体は陰性であった.その他,傍腫瘍性辺縁系脳炎に関連がある,抗Yo抗体,抗Hu抗体,抗Ri抗体,抗CV2抗体,抗Ma-2抗体,抗amphiphysin抗体,抗PNMA2抗体,抗SOX1抗体,抗Titin抗体,抗Zic4抗体,抗GAD65抗体,抗Tr(DNER)抗体は全て陰性であった.

Fig. 4 Clinical course of our patient.

After the day of admission, she was treated with immunotherapy followed by multiple antiepileptic drugs (AEDs). ACV was administered until herpes simplex encephalitis was ruled out. She received two cycles of immunotherapy before discharge. Her memory disturbance was gradually improved with treatment. IVIg, intravenous immunoglobulin; mPSL, methylprednisolone; ACV, acyclovir; LEV, levetiracetam; STP, stiripentol.

考察

本症例は,繰り返す一過性の健忘で初発し,亜急性に進行した抗GABAB受容体陽性脳炎の症例であった.脳波で側頭葉を起始とする発作波を認め,一過性の健忘が時間をおいて繰り返し出現している病歴から,焦点発作の症状としてTEAを呈する側頭葉てんかんと診断した.頭部MRIで左側頭葉内側に異常信号を伴っていたため,側頭葉てんかんは急性辺縁系脳炎に起因していると考えられた.中年女性に初発した原因不明の急性辺縁系脳炎であり,自己免疫性脳炎を鑑別に免疫療法を施行し,健忘は消失した.後日,髄液中の抗GABAB受容体抗体陽性と判明した.

TEAは,意識障害を伴わない一過性健忘エピソードを繰り返す焦点発作の症状の一つである5.診断基準は,繰り返し確認される一過性健忘エピソード,発作時に記憶以外の認知機能が保たれている,てんかんと診断される他の証拠がある,の三つを満たす必要がある9.健忘発作は概ね数分間であり,前向性健忘と逆行性健忘のいずれもが生じ得る.発作間欠期には,一度保持した記憶を数時間後~数週間後に忘却してしまうという前向性健忘(加速的長期健忘accelarated long term forgetting,以下ALFと略記)や,自伝的記憶を中心とした遠隔記憶障害(autobiographical amnesia)といった記憶障害を伴う場合もある10.一方,一過性全健忘では,逆行性健忘および前向性健忘を認め,健忘以外の高次機能障害を認めない点でTEAと類似するが,症状の持続時間が比較的長く,症状消失後には記憶障害を認めない点や,脳波は正常である点がTEAとの相違点である6

TEAの原因疾患は,多岐にわたる11.TEAと自己免疫性脳炎との関連を述べた報告は,我々が調べ得た限りこれまでに2件の症例報告がある.Wittらは抗GAD抗体関連脳症12に,Savageらは抗NMDA受容体抗体脳炎13に随伴した症例をそれぞれ報告しており,TEAの原因疾患として自己免疫性脳炎は考慮すべきと考えられる.自己免疫性脳炎を想定した場合,早期の免疫療法が神経学的予後に相関する.したがって,自己抗体の結果を待たずに治療を開始する必要性があり,その際に免疫療法の妥当性を評価する必要がある.その指標として,Response to Immunotherapy in Epilepsy(RITE)score14が有用であり,7点以上であれば,感度87.5%,特異度83.8%で免疫療法に反応があるとされている.本症例は,RITE score 7点であったため,自己抗体陽性を確認するよりも早期に免疫療法を施行し,寛解を得ることができた.

抗GABAB受容体抗体陽性脳炎は,記憶障害を主要な症候にもつ自己免疫性脳炎である.他の自己免疫性脳炎同様,痙攣やてんかん重積,錯乱なども高い頻度で認める23.抗GABAB受容体抗体陽性脳炎は,IgG型自己抗体が神経細胞表面抗原であるGABAB受容体に作用し,抗体介在性にGABAB受容体の機能障害を来すことが病因と考えられている15.一般に,チャネルや受容体など神経細胞表面抗原に対する抗体を生じる脳炎では,抗体を除去し産生を抑制する免疫治療が奏効することが知られており1,抗GABAB受容体抗体陽性脳炎も免疫療法への反応性は良好である23

GABAB受容体のアゴニストであるバクロフェンは,髄腔内投与により強直間代性痙攣や意識障害を生じ,しばしば健忘の原因となる6.近年,バクロフェンを髄腔内に反復投与することで,TEAに特徴的な一過性健忘やALF,AbAが誘発されることが報告され6,TEAとGABAB受容体の関連が示唆された.前述したように,TEAは自己免疫性てんかんでは少数例の報告に留まる一方で1213,側頭葉てんかんでは多数例の報告がされている111617.本症例は自己免疫性脳炎に伴う側頭葉てんかんの症状としてTEAが現れたと考えられるが,バクロフェン投与での症例報告に基づくと6,本症例はGABAB受容体の機能障害によりTEAが惹起された可能性も考えられる.

本症例は全身に散在する淡紅色の弾性軟丘疹を認め,神経皮膚症候群を鑑別に皮膚生検を行った.病理学的所見は,皮下組織に末梢神経が構造を保ちながら過形成となっていた.これは神経鞘腫や神経線維腫とは異なる所見であり,神経腫と病理診断されたため,神経皮膚症候群は否定的であった.しかしながら,増生した末梢神経束周囲にリンパ球の浸潤がめだち,免疫の活性化が神経増生と関連している可能性が指摘された.皮疹と自己免疫性脳炎との関連はこれまでに報告されており18,本症例においてもその因果関係は否定し得ない.

これまで,焦点発作の症状としてTEAを呈し,側頭葉てんかんと診断された症例の中で,抗GABAB受容体抗体陽性脳炎が原因であったとする報告は無い.本症例は,GABAB受容体の機能障害により,TEAが惹起された可能性を示唆する貴重な症例である.てんかんの原因疾患を正確に診断することは,適切な治療を選択するために重要であるが,一連の抗神経細胞表面抗原抗体を網羅的に解析する測定施設が限られている現状では今なお難しい.TEAで発症した側頭葉てんかんの原因として自己免疫性脳炎を疑い,免疫療法を含めた初期治療を検討する必要がある.

Acknowledgments

謝辞:各種自己免疫抗体を測定いただいたBarcelona大学のJosep Dalmau先生に深謝致します.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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