抄録
前頭葉機能は日常のさまざまな意思決定に関与しているが,認知心理学では他の人たちとひとつの目標に向けて協力行動する状況における前頭葉機能の働きはほとんど研究されてこなかった。本研究では,伝統的な前頭葉機能課題のひとつである乱数生成課題を2人で協力して行ったときの制御行動が,課題を1人で実行したときと比べてどのような点で優れているか,劣っているかということを実験的に検討した。使用した乱数生成課題は1から10までの数字をなるべくランダムな順序で報告してゆく課題で,ランダムな数字列を生成するには高度な制御能力が必要とされることがわかっている。実験の結果,参加者は相手の反応を考慮して自分の反応を調整していたことが判明し,協同課題成績は全体的に良好だったが,一方で成績が低下する側面も観察された。結果を踏まえ,協力行動における人間の制御行動の特徴と協同認知に関する今後の研究の可能性を議論する。