本研究では,視覚的な語の読みにおける音韻情報の役割について,漢字語の同音語数による影響を基に検討した。Hino, Kusunose, Lupker, & Jared (2013)は,漢字語の同音語数を操作した語彙判断課題を行ったところ,同音語少条件には抑制効果が観察されたのに対して,同音語多条件では促進効果が観察された。一方で,水野・松井 (2016)では,同様の実験について音韻親近性を統制して行ったところ,同音語数による抑制効果のみを報告しており,Hino et al. (2013)とは異なる結果を示していた。
そこで本研究では,このいずれの結果が正しいのかを確認するために,音読課題を用いて漢字語が持つ同音語数の影響について検討した。その結果,同音語少条件では効果が観察されず,同音語多条件のみに抑制効果が観察された。この結果は,同音語多条件では音韻レベルから形態レベルへのフィードバックが関与することにより多数の形態情報が活性化され,漢字語に対する音読判断が妨害されたものと思われる。
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