抄録
従来,道具と身体の運動制御においては,それぞれ異なる内部表象が仮定されることが多かった。本研究は,身体と道具使用時の運動制御の違いには,戦略的な要因が大きく寄与することを仮説とし,習熟度の低い新奇道具を使用した際にも,戦略的要因を除外できれば,手使用時のような運動制御が可能となることを予測とした。そのため,実験では,戦略的要因の入りにくい速い速度での把持運動をおこなった。この時,もしターゲットを落としても問題はないことを被験者に繰り返し確認させた。実験の結果,新奇の道具を使用した場合でも,運動速度を速くすると,手を使用した際の把持に近い運動プロファイルが得られた。本結果は身体でも道具でも,共通の計算原理に基づいて運動計画が行われ,効果器の習熟度に応じた戦略を用いることによって運動制御の稚拙さが補われていることを示唆した。