抄録
本研究ではマインドワンダリング(何らかの活動中に注意が外界からそれ,課題と無関係な思考へと向かう現象)における課題無関連思考(TUT)がどのような心的機構で意識に広がるかについて,関口(2014)をもとに,音韻的短期記憶と視覚的短期記憶の関与の違いという観点から検討した。実験では,36名の参加者が音韻的短期記憶課題,視覚的短期記憶課題,統制条件課題の3つを行い,その最中に生じるTUTを思考プローブ(課題中ランダムに6回呈示)により自己報告した。その上で,TUTの報告数を課題間で比較したところ,音韻的短期記憶条件において,視覚的短期記憶条件および統制条件に比べたTUT報告数の減少が見られた。一方,視覚的短期記憶条件ではTUT報告数の減少は見られなかった。この結果は,TUTが視覚的短期記憶よりも音韻的短期記憶の働きに依存して生じること,およびTUTに視覚的短期記憶が関与しないことを示唆している。