2010 年 15 巻 1 号 p. 17-26
原因不明の非ヘルペス性脳炎後に重篤な健忘症候群を呈した30歳代女性の症例に対して認知リハビリテーションを長期的に実施した。その過程を,神経心理学的所見の変化を含めて報告する。症例は記憶障害のみならず病識欠如と自発性低下を伴い,発症後1年半の間は日常行動や認知リハビリテーションが困難な状態が続いた。しかし環境の変化をひとつの契機として自発性の向上がみられ,記憶障害も自覚するようになった。さらに発症後2年以上経過した時期からは,認知リハビリテーションにも積極的に取り組み始め,エピソード記憶も徐々に改善し,代償的手段も利用できるようになった。日常記憶チェックリストでは,本人の評価が経過を通して一貫しているのに対して,家族の客観的評価では改善がみられた。発症後4年において,健忘症状と病識に問題は残すものの,自発性の向上は明らかに認められ,記憶障害に対する代償的手段の利用も良好なレベルに至った。