左脳梗塞により,右手での道具把持の困難さを認める症例を経験した。把持動作の障害は主に握り方の誤りや把持動作の拙劣さであった。実物品を用いた把持動作の訓練にて,握り方の誤りは改善を認めたが,把持動作の拙劣さが残存しており,道具使用の困難さの訴えが聞かれていた。右手での道具把持の困難さの要因を明らかにするため,非道具,疑似道具を用いてEnd State Comfort(ESC)課題を実施した。また,訓練として非道具を用いてESC課題を6週間行ったところ,把持動作における所要時間の短縮や逡巡の減少を認め,日常生活場面において右手が使いやすくなったとの訴えが聞かれた。ESC課題を継続して実施することは把持動作における運動の選択・実行過程の改善に効果的であった可能性が考えられる。