2011 年 16 巻 1 号 p. 15-24
症例は42歳男性。PCR陽性にてヘルペス脳炎と診断され入院。重度前向性・逆向性健忘(約20年間),見当識障害,病識低下,15歳から20代初旬の時期についての誇大的自発作話が目立った。MRI,SPECT画像にて病変は,右側に強い両側頭葉内側部・前頭葉眼窩面を含む広範囲と,前脳基底部に及んでいた。神経心理学的検査で記憶障害および注意障害を認めた。認知リハビリテーションは,病棟とリハビリテーション場面において,病棟環境調整という点を重視した一種のReality Orientation 法(RO法)と段階的なメモリーファイル使用訓練を実施した。結果,見当識や病識に改善を認め,自伝的記憶における誇大的自発作話を含む精神症状も改善した。また,行動的側面の改善も認めた。神経心理学的検査では,重度の記憶障害は残存するが,注意機能は改善した。注意機能の改善は,意欲と自発性の向上と関係する可能性が示唆された。本症例への一連の認知リハビリテーションはself awareness 自己意識を上げたと考える。