前頭葉出血後に日常生活動作の障害を呈した症例に対する急性期から自宅退院までの作業療法経過を報告した。症例は発症3病日の訓練開始当初,環境依存的態度,保続,注意の転導により一つの動作を完了できなかった。作業療法では動作を適切に開始・継続・転換・終了できることを目標に作業を用いて訓練した。約2ヵ月の作業療法後,動作を正しく遂行できる場面は増加したが,病棟生活では依然として自発的に動作を開始することができず,環境依存的態度が残存し,介助や声掛けを要した。一方,自宅への試験外泊時の日常生活動作は自立していたため,3回の外泊後,自宅退院となった。本症例は前頭葉損傷による動作の遂行障害が残存したが,環境依存的態度は自宅という慣れた環境ではむしろ利点となった可能性が考えられた。自宅退院においては,単に病棟生活の自立度向上を目標とするのではなく,症例の行動特徴や生活背景をふまえた介入が必要と考えられた。