認知リハビリテーション
Online ISSN : 2436-4223
特別寄稿
非形式論理学と神経心理学的議論
福澤 一吉
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キーワード: 根拠, 主張, 論拠, 論証, 論理
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2023 年 28 巻 p. 1-8

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Abstract

Neuropsychological terms refer to neuropsychological phenomena such as aphasia, word finding defects and alexia which we are trying to explain. On the other hand, a group of words including theory, assumptions, hypothesis and explanation are used to evaluate what neuropsychology is as a science at a meta level. To improve neuropsychological research, we need to examine the relationship between these two groups of words. This paper evaluates a neuropsychological description of spatial neglect in the Balint syndrome using Toulmin’s model of reasoning (Toulmin 1956). Here reasoning refers to the logical process of inducing conclusions from evidence and connecting these two using a warrant. This paper suggests that formal argumentation should meet the criteria of Toulmin’s model.

はじめに

神経心理学的症状に関して議論したり、論文を書いたりする場合、大きく分けると二つの種類の言葉を使い分ける必要があります。1つは「神経心理学が語る言葉」です。これには、例えば、失語症症候群、脳損傷、呼称障害、左手の一側性失書、ウェルニッケ失語、片麻痺、促通効果、前頭葉症状、視空間失認、聴覚理解、パーキンソニズム等々があります。これらの言葉は神経心理学が明らかしようとしている対象側に付けられた言葉です。これらの言葉を使って神経心理学は営まれています。

一方、「神経心理学を語る言葉」があります。例えば、そこには事象、事実、理論、説明、仮説、仮定、補助仮定、実験、観察、予測、原因、相関、因果、モデル、演繹、帰納、論証、推論、論理、理論語、観察語、統制群、実験群、バイアス、反証事例等々が含まれています。このグループの言葉は「神経心理学について語る言葉」です。つまり、「神経心理学を語る言葉」です。「神経心理学が語る言葉」に対してメタレベルにある言葉です。

「神経心理学が語る言葉」だけに注意を集中させても、知りたい神経心理学的症状の理解に必ずしも繋がる訳ではありません。神経心理学的研究の質を向上させるには、「神経心理学が語る言葉」と「神経心理学を語る言葉」を互いに照合しつつ、その間を行き来し(仮にこのことを相互作用チェックと呼んでおきます)、研究や議論の内容を吟味することが不可欠です。このことを具体的な事例で大まかに考えてみます。本稿では「神経心理学が語る」言葉の中からBalint症候群の空間性注意障害を、「神経心理学を語る」言葉の中から論証(議論モデル)という語を取り上げ、それを「神経心理学が語る議論」の分析に使ってみます。まずは、論証(議論モデル)の話から始めます。

論証(reasoning)とは何か?

「ロンドンはよく雨が降る(根拠・前提)。だから、明日も雨かもしれない(主張・結論)」のようにある一定の根拠や前提から、「だから」という帰結を導く接続詞を使い、一定の結論・主張を導くことを論証と言います。論証の一般的な形式は「根拠・前提。だから、主張・結論」となります。

論証に使われる根拠は経験的事実であることが基本です。経験的事実とは実験、観察、調査などによって誰でも経験することのできる事柄を指します。一方、接続詞「だから」を挟んで導かれる主張・結論は根拠から推測、飛躍して得られた結果ですから、直接経験することができません。その意味で、主張・結論のことを非経験的事実と呼んでおきます。確かに、「明日も雨かもしれない」という内容は、明日になれば結果を確認できますので、その時点では経験的事実になります。しかし、この論証をしている時点ではあくまで明日は未来の出来事ですから、直に経験はできないのです。つまり、論証とは「経験的事実から非経験的事実を導くこと」という言い方も可能です。

論証は卑近な話から複雑な、アカデミックな議論に至るまで、人間が扱う対象であればどんな事柄についても使えます。例えば、「この症例は左第三前頭回の脚部に限局性の病変部位がある(根拠)。だから、この症例はブローカ失語を発症する可能性がある(結論)」も論証の形式になっています。この形式は「ロンドンはよく雨が降る(根拠)。だから、明日も雨だろう(結論)」という論証と構造的に何ら変わりません。このように、内容の如何にかかわらず、そこで語られていること(議論が語る言葉)を、そこに含まれる要素を根拠と主張という論証用語(議論を語る言葉)に置き換えることによって、その論証構造に注意を向けることができます。議論の分析する際には、まずは、議論を論証構造に置き換えることから始めます。

論拠の役割:なぜ一つの事実が理由に使えるのか。

次のAとBの会話を読んでください。

A:「彼女は今日どうしてミーティングに来なかったのかな?」

B:「発熱しているそうですよ」

この会話は特に不自然ではありません。この続きで、Aが「早く回復してくれるといいね」となれば、これで会話が終わります。しかし、よくよくこの会話を読んでみると、とても妙なことが起こっているのに気がつきます。それは、Aは「なぜ、彼女が今日ミーティングにこられなかったかの理由」を聞いているのに対して、Bはその理由を「発熱」という一つの「事実」で答えている点が妙なのです。しかも、「発熱」の一言で、彼女がミーティングに来られないという結論の理由として機能いしているのです。これはなぜでしょうか?

この謎を解くために先程の会話の続きを読んでください。

A:「でも、薬でも飲んで、来ようと思えば来られるじゃないか」

B:「でも、かなりの熱があるそうですよ」

A:「自分で動けないなら、車椅子で誰かに連れてきてもらえば、来られるよ」

B:「彼女は病気ですよ」

A:「そんなことは知っているよ。僕の知りたいのはここに来られない直接的な理由なんだ」

B:「そんな、訳の分からないこと言わないでください」

Aのような質問をするような人は実際にはいないでしょうが、Aの質問自体は論証の上では有効です。もし、Aが「彼女の容態はどうなんだろうね」と症状についての質問であれば、Bの「発熱だそうですよ」という答えで質疑応答は完了します。しかし、Aの聞いているのは、彼女がここに来られない「理由」です。Aは、「発熱」という事実だけでは、ここに来られないという「理由」としては成立しないと言っている訳です。

そこで「発熱」という根拠と「ミーティングの欠席」という結論を「何か」が結びつけていると考えてみましょう。そう考えますと、Bが「発熱」と「欠席」との関係について幾つか暗黙に仮定していることがあることに気がつきます。例えば、Bが心の中で想定していて、かつA Bの会話に出てこない暗黙の仮定とは次のようなものです。

1.人間は健康であるべきだ。2.発熱は病気の兆候である。3. 風邪は病気だ。4.病気は治すべきだ。5.病気は感染する可能性がある。6.病気は人にうつしてはいけない。7. 感染は人との接触によって生じる 8.治療には安静が必要だ。9.安静とは必要以上に体を動かさないことだ。10.その他の仮定

これらの多くの仮定がBの心の中にあり、これらの仮定が「発熱」という根拠と、「今日彼女が来られない」という結論を結びつける理由の役割を果たしていたのです。Bが暗黙の仮定としていたものをToulmin(1956)は論拠(warrant)と命名しています。論拠とは根拠と主張・結論の間を論理的に結合するための仮定の集合です。ですから、よりフォーマルな論証は「根拠、だから主張・結論、なぜなら、論拠」という形式になります(図1)。

図1 論証に必要な3つの要素

論証における論拠の重要性

AB間の会話では、会話には出てこない暗黙の仮定が使われていて、「発熱」という経験的事実と「彼女がここに来られない」という主張(結論)を結び付けていました。このような簡単な会話であっても言及されていない理由としての論拠が使われていたのです。

一方、神経心理学をはじめとするアカデミックな議論では論拠は暗黙であってはなりません。なぜなら、一般に議論では、自分が収集したデータ(事実、根拠)から一定の飛躍をして結論や主張を導いているのですから、「どうしてその飛躍が許されるのか、どうして当該の根拠から当該の主張や結論が導かれるのか」を説明する必要があるからです。そして、その説明には論拠(仮定)を使わざるを得ないのです。なぜなら、この論拠こそが論証における根拠と結論を結びつける役目をしているのですから。つまり、神経心理学的な論証において、論拠は、ある症状とそこから得られる結論との関係を支える理論モデルの役目をしているのです。

具体的な例をトウールミンの論証モデルに当てはめてみます。次のようになります。ただし、論拠(仮定)の数は4つとは限りません。根拠:この患者はある特定の言葉が発話されるまでに通常より時間がかかり、結果的に発話に失敗した。だから、結論:喚語困難になっているのであろう。なぜなら、論拠1:喚語のプロセスには以下の仮定4つが含まれていて、喚語困難はそのうちのどこかに問題があるからである。論拠2:当該の言葉が言語記憶に貯蔵庫されている。論拠3:発話には言葉の探索が必要である。論拠4:発話には言葉を回収する必要がある。論拠5:構音器官に神経指令を出す。

なお、ある説明する際に、論拠を使っている本人が暗黙の了解のもとに使っていることがあります。これは論拠を当然で当たり前のものとして見てしまうことにつながり、論証全体としてとても危険です。論拠は対象をどう見るかのバイアスであり、絶対的なものではありません。ですから、常に論拠の存在を意識することが大事です。

根拠と論拠を区別する(その1)

根拠も論拠も論証における理由の役目をしていますが、両者の役目は全く違っています。根拠を出すことは「あなたの主張・結論には何(what)か具体的な証拠はありますか?」という質問に対する答えを出すことです。つまり、「何か(what)具体的な事実・証拠はあるのですか)と聞かれているのですから、それは経験的事実、データを持って答えるしかありません。

一方、論拠を出すことは「あなたが今、提示した根拠・経験的事実から、なぜ(why)あなたの主張が導かれるのですか?」という質問に対する答えを出すことです。経験的事実(データ)と主張が関連付けられるといえるのはなぜ(why)ですかと聞かれているのですから、今度はそれを事実で答えることはできません。ここは仮定、仮説を持って答えとする必要があるのです。

例えば、「本人がそう自白した」という事実・根拠があったとします(図2)。その時、「この事実は信憑性がある」という論拠1を使えば、「この人は犯罪人である」という主張・結論を導くことができます。一方、同じ「本人がそう自白した」という事実・根拠から出発しても、「この事実は強制されたものだ」という論拠2を用いれば、「この人は無罪である」という結論を導くことが可能です。つまり、根拠としての事実が全く同じでも、異なる論拠を使用すると全く異なる結論が導けるのです。この例からも論証における根拠と論拠の役割の違いがわかります。

図2 根拠、主張、論拠の関係図

神経心理学の文章を論証という観点から分析する

これまでに解説した論証モデルを使って実際の論文の一部を分析してみることにします。まずは、次の文章を読んでください。

①一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害は、②部屋の中の物品を指示させると明らかになる。③対側視野空間に置かれた物品に気がつかない。しかし、④患側(同側)視野空間に置かれたものにも気づかないことがある。⑤線画の状況図が把握できないという症状は、⑥軽度の空間性注意障害(背側性同時失認)の現れと見ることができる。⑦実際、欧米では背側同時失認の診断根拠に状況図が用いられている。もともと、⑧線画の状況判断ができないという症状は、腹側型の同時失認に対して指摘されていたことである。(櫻井1コミュニケーション障害としての読み書き障害、 神経心理学 37、No.2, 81-87, 2021

文章から論証を取り出す

文章分析の最初のステップは文章中に含まれる論証を取り出すことです。この時、注意が必要なのは、「根拠、だから、主張・結論」という形式で書かれていなくても、内容として論証になっている文も見逃さずに取り出すことです。例えば、「①一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害は、②部屋の中の物品を指示させると明らかになる。③対側視野空間に置かれた物品に気がつかない。」とありますが、ここで既に論証が発生しています。つまり、「②部屋の中の物品を指示させる。だから、①一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害は明らかになる」という論証です。ここでは、「②部屋の中の物品を指示させる」の具体的内容がこれ以降の文章で述べられる形になっています。①②は主張であり、結論・主張は主語と述語からなる命題表現でなくてはならないため、そこに論証(根拠だから主張という組み合わせ)を含むことはできません。ですから、ここでは「①一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害を明らかにすることは可能である。」としておきます。

文③と文④は、文①の主張・結論を導くために使われている根拠(経験的事実)です。ですから、ここでは「文③、文④。だから、文①」という論証が書かれています。

次に、文⑤、⑥、⑦をみます。ここは悩ましいところです。なぜなら、ここは複数の解釈が可能であり、解釈次第でこのパラグラフにおける論証構造全体が変わってくるからです。つまり、一方で「⑤線画の状況図が把握できないという症状がある。だから、⑥軽度の空間性注意障害(背側性同時失認)の現れている」という論証として解釈可能です。「文⑤だから⑥」を論証ととれば論拠が必要になります。他方で、「⑤線画の状況図が把握できないという症状は、⑥軽度の空間性注意障害(背側性同時失認)の現れだ」という一つの文としても解釈可能だからです。この場合、この文自体は論拠に相当します。なぜなら、その内容が経験的事実ではなく解釈の結果(仮定)だからです。さらに、3つ目として、文⑤と文⑦がそれぞれ単独の根拠として文⑥の結論を導いていると解釈することも可能です。なお、文⑧はこのパラグラフ内における論証構造とは直接関係がありませんので、分析対象から外します。

論証を論証基本フォームで表現して整理する

文章から論証を取り出し、論証構造として捉えたら、次にそれを論証基本フォームに書いてみます。根拠と主張の間にある線は推測バー2です。論証を成立させるには、1つの論証につき最低1つの論拠が必要です。論証基本フォーム1では、根拠③だから主張①、根拠④だから主張①の2つの論証があります。

論証基本フォーム1

  1. 根拠③:(患者は) 対側視野空間に置かれた物品に気がつかない。

    根拠④:(患者は)(同側)視野空間に置かれたものにも気づかないことがある。

    主張①:だから、一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害がある。

    論拠① :なぜなら、、、、暗黙の了解?

一般的議論において論拠は書かれていませんから、読者がそれを推定することになります。ここでの論証では、なぜ根拠③④から主張①が導かれるかの論拠の推定は与えられている文だけからでは困難です。ここで論拠を推定するには「気がつく、気がつかない」とは何を指しているのか、「空間性注意障害とは何か」が事前に定義されている必要があります。なぜなら、これらの言葉は理論語3だからです。さらに、経験的事実として症状が観察可能な行動であることと、それと空間性注意障害の背景にある仮定との間に一対一の対応があることが必須です。これも相互作用チェックになります。

論証基本フォーム2

論証基本フォーム2では、根拠⑤、⑦のそれぞれから主張⑥を導いていますので、ここでも論証が2度生じています。

  1. 根拠⑤ :線画の状況図が把握できない。

    根拠⑦:実際、欧米では背側同時失認の診断根拠に状況図が用いられている。

    主張⑥:だから、軽度の空間性注意障害(背側性同時失認)の現れと見ることができる。

    論拠1:線画の状況図への反応から、重症度が判断できる。

    論拠2 :欧米で使われている診断根拠は信頼できる。

    論拠3: ?

ここでは「把握」が理論語であるため、定義が必要です。さらに、「空間性注意障害」の定義が再度必要になります。この定義ができると論拠3が推定可能となります。専門性の高い論文ではそこで使われている用語の定義は読者と共有されていることがあるでしょうから、論拠を明示する必要がない場合もあるでしょう。しかし、共有されていることは保証の限りではありません。ですから、できるだけ重要な用語(理論語)は事前に定義しておくべきです。また、論拠2はそのまま鵜呑みにできない仮定です。この論拠の使用は避けた方がいいでしょう。そのためには、根拠⑦を論証に使わないことです。

論証基本フォームを論証図にする。

文章を読みながら、そこに含まれる複数の論証を探し、さらに、それらの論証間の構造関係を同時に把握するのは簡単ではありません。そこで、論証基本フォームにした論証を次に論証図にしてみます。論証図とは複数の論証間の関係を図式化することで、意味的にひとまとまりの文章に含まれる複数の論証間の関係の全体像を視覚的に俯瞰するための方法です。

図3 論証図を使った論証間の関係

以下、図3を解説します。図中の矢印は、「だから」の意味で、そこに論証が生じていることを示します。例えば、「⑥→①」は⑥を根拠に①を導いていることを指します。この例のように、ある一つの根拠から一つの結論を導く論証を単純論証といいます(実際には図3にあるように矢印は下向きに書きます)。

次に、複数の意味的に類似する根拠が一体となって一つの結論を導く場合は、結合論証といいます。図3の左側の実践の楕円で囲まれているのが結合論証です。結合論証を表現するには、③+④のように+を使い結合を示し、その下に線をひき、その線の下から主張への矢印を書きます。本例では根拠③④ともに視野空間に置かれた物品に気がつかないという共通点がありますので、両者をまとめることができます。

もう1つの論証は合流論証と呼ばれるもので、図3の右側の波線で囲まれているものです。合流論証で使われる根拠はそれぞれ独立の意味があり、結合論証のように、それらをまとめて一体化することはできません。なぜなら、⑤から⑥、⑦から⑥がそれぞれ別々に、単独で導かれているからです。この場合は、それぞれの根拠から結論へ別々に矢印を描きます。ですから、結合論証のように根拠を一まとめにすることはできません。

最終的結論を導くのに直接関係している論証を主論証、その主論証を脇からサポートする論証を副論証と言います。今回取り上げたパラグラフに含まれる論証の全体像(図3)をみることにより、使われている根拠の内容や、その組み合わせについて検討することができます。実際、論文を書き始める前にそのようなことを考えておけば、論証全体として分かりやすいものになります。それにより論拠も推定しやすくなるのです。

論証を背景にパラグラフ構造で文章を書き直す。

パラグラフの構造(結論を最初に書き、その後にそれを支持する根拠を書く)に従って、分析した結果を参考に、文章の書き換えをします。最初は、⑤(⑥)を間接的根拠として扱う場合です。

①一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害を明らかにすることは可能である。それを支持する経験的事実は以下3点である。 第一に③部屋の中の物品を指示しても、対側視野空間に置かれた物品に気がつかない。第二に④患側(同側)視野空間に置かれたものにも気づかないことがある。第三に⑦実際、欧米では背側同時失認の診断根拠に状況図が用いられている点である。さらに、間接的な根拠として、⑤線画の状況図が把握できないという症状は、軽度の空間性注意障害(背側性同時失認)の現れと見ることができる点が挙げられる。これら4つの根拠から、① 一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害を明らかにできるのである。櫻井(神経心理学 37;81-87, 2021)より改変

次に、⑤(⑥)を論拠(仮定)と捉えた場合の書き換え例です。

*①一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害を明らかにすることは可能である。それを支持する経験的事実は以下3点である。 第一に③部屋の中の物品を指示しても、対側視野空間に置かれた物品に気がつかない。第二に④患側(同側)視野空間に置かれたものにも気づかないことがある。第三に⑦実際、欧米では背側同時失認の診断根拠に状況図が用いられている点である。なぜなら、その論拠として⑤線画の状況図が把握できないという症状は、軽度の空間性注意障害(背側性同時失認)の現れと仮定できるからである。これらにより、① 一側性病変によるBalint症候群の空間性注意障害を明らかにできるのである。櫻井(神経心理学 37;81-87, 2021)より改変

終わりに

議論したり、論文を書いたりする際、我々は具体的に取り扱う対象だけに注意が向いてしまう傾向があります。ですから、その注意が自分のものの見方、対象の捉え方にどんなバイアスをかけているかにはなかなか気づけません。ですから、自分を相対化することは簡単ではありません。これを可能な限り解消するには、自分が普段使っている神経心理学的用語の背景に何が仮定されているのか、自分の論証に必要な論拠は何か等々を「意識的」に考える習慣をつけることが必要です。このような操作によって自分自身の考え方を俯瞰する機会がもてます。

脚注

1 本論文の引用およびそれを論証の分析対象として本研究会で発表することに関しては著者から事前に許可を得ています。また、文頭の番号は便宜上附したものです。

2 このバーの上に経験的事実を書き、バーの下に結論を書きます。結論は、バーの上の経験的事実からバーを超えて推測した結果ですので、この推測前後に引かれているバーを推測バーと言います。

3 使い方の条件と範囲を決定しない使えない語。

引用・参考文献
 
© 2023 認知リハビリテーション研究会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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