抄録
【トレーニング現場へのアイデア】
運動後にノンアルコールビール(NAB)を摂取するこ
とで、プラセボ効果による脳の錯覚現象が起き、実際にビールを飲用した時と同様の高い
リラックス感を得ることが出来る。よってNAB 摂取は運動後の飲料としての有用性が高い。
また運動前後のNAB の継続的な飲用により免疫機能の強化や、炎症の抑制作用が明らかに
されており、運動後の回復を促す観点からも、運動後に飲酒を望む運動実施者に対し、代
替飲料としてNAB を推奨することが出来ると考える。
【目的】近年、運動後のアルコール摂
取が心身に悪影響を与えることが明らかにされているが、ノンアルコール飲料についての
検討はほとんど行われていない。そこで本研究は全力ペダリング運動後にNAB を摂取し、
気分に与える影響を調査することを目的とした。
【方法】
被検者はビール摂取経験と運動習慣のある男性5 名(21.0±0.5 歳、174.8±1.5cm、74.6±3.8kg)、女性5 名(20.8±0.3
歳、164.3±1.3cm、58.5±1.0kg)であった。運動前(Pre)に日本語版POMS2 短縮版(POMS2)
による気分調査とTAS9 ビュープラス(YKC 社製)による自律神経系活動(ANS)の測定を
行った。その後、パワーマックスⅦ(コンビ社製)で事前に実施した無酸素パワーテスト
で得られたハイパワー値で10 秒間、ミドルパワー値で30 秒間の全力ペダリングを2 分間
の休息を挟み実施した。運動後、NAB(NAB 条件)もしくはカロリー・糖濃度を同一にした
炭酸水(SPW 条件)を500ml 摂取し、20 分の安静状態を保持した。安静10 分後(Post)に
POMS2 とANS を再度行った。またリラックス感を主観的気分測定ツールKOKORO スケール
[(株)Kokorotics]を用い、Pre、運動直後、安静5 分後から20 分後まで5 分おきに測定
した。各条件は1 週間以上間隔をあけて無作為に実施した。条件間の平均値の比較には対
応のあるt 検定を行った。各測定値の経時的変化を条件間で比較するため、時間と条件を
要因とした繰り返しのある二元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合は多重比較
検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
全力ペダリング運動の結果は両条件で
違いはなかった。両条件でPOMS2 では疲労-無気力のみで差が認められ、Post が有意
(p<0.01)に高値を示した(NAB 条件、Pre:3.3±1.0、Post:7.9±1.7、SPW 条件、Pre:
3.3±1.0,Post:7.6±1.3)。ANS は交感神経系活動を示すLnVLF のみで、両条件ともPost
で有意(p<0.05)に低値を示した(NAB 条件、Pre:6.06±1.12、Post:5.56±0.08、SPW
条件、Pre:6.06±0.07,Post:5.56±0.08)。KOKORO スケールでは安静5 分後から20 分後
までのリラックス感の平均値を算出したところ、NAB 条件で有意(p<0.01)に高値を示し
た。
【考察】
NAB 条件で運動後にリラックス感が有意に高かったのはプラセボ効果と推察さ
れる。NAB の風味などにより脳が通常のビールを摂取していると錯覚してアルコール摂取
時のような脳活動が起こるとされており、本研究でも同様の効果によってリラックス感が
高まったと考えられる。今後の研究で、副交感神経活動との関係をさらに検討したい。