抄録
【トレーニング現場へのアイデア】足関節捻挫の既往を有するスポーツ選手にとって、動的姿
勢制御の低下や足関節背屈可動域制限は、足関節捻挫再発の大きな危険因子である。それらの
定期的な評価は、捻挫の再発予防や再発後の安全かつ早期の競技復帰の観点から重要視されて
いる。動的姿勢制御を評価するStar Excursion Balance Test(以下、SEBT)と足関節背屈可動
域を評価するWeight Bearing Lunge Test(以下、WBLT)は優れた評価方法であり、スポーツ現
場での実践研究で広く用いられている。しかしながら、フィールド上におけるそれらの測定は、
測定者の確保や測定に要する時間などの課題により、簡易的に測定することが困難である。そ
れらの課題を克服するため筆者らの研究室では、レーザー距離計にて数値をデジタル化し、検
者間誤差が生じにくく、かつ測定及び測定器の携帯が簡便な測定器を作成した。【目的】本研
究では、足関節捻挫の既往を有する大学生男子サッカー選手に対してフィールド上での自作の
測定器を用いたModified Star Excursion Balance Test(以下、mSEBT)およびModified Weight
Bearing Lunge Test(以下、mWBLT)の有効性について検討することを目的とした。【方法】測定
環境:大学内サッカー場。 参加者:C大学男子サッカー部に所属する足関節捻挫の既往を有
するサッカー選手16名(以下、LAI群)と同部に所属する健康なサッカー選手15名(以下、非LAI
群)。LAI群の条件は、1)最低1回の腫れ、痛み、足関節の機能不全を伴う捻挫を3ヶ月以上
前に経験、2)Cumberland Ankle Instability Tool(以下、CAIT)において24点未満であるとし
た。 測定手順及び分析方法:参加者は、質問紙にてCAITに回答してもらった。その結果に従
いLAI群と非LAI群に振り分けた。動的姿勢制御をmSEBTで、足関節背屈可動域をmWBLTにて測定
した。測定脚はボールを蹴る際の軸足とした。mSEBTは、ボールを蹴る脚にて測定器のスライ
ダーを押し出しながら最大限リーチさせ、メジャーの上を軽くタッチする。前方、後内側、後
外側の3方向のリーチを3回ずつ行い、測定者は3方向のリーチ距離を記録し、各方向の平均値
を算出する。その平均値は、被検者の脚長で除し標準化する。mWBLTは、壁に対して垂直に設
置された測定器上に測定脚の足を置き、前方ランジを実施し、踵を浮かすことなく膝を壁に
接することができる最大距離を記録した。 統計分析:各測定項目について対応のないt検定
を用いて比較した。統計処理ソフトウェアはIBM SPSS 29.0 for windowsを用いた。有意水準
は、p<0.05とした。【結果】LAI群と非LAI群の比較において、mSEBTのすべての方向で有意な差
がみられなかった。(前方:LAI群=0.681±0.056,非LAI群=0.692±0.058,p=0.059,ES[CI]=
-0.2[-0.9,0.51],後内側:LAI群=0.908±0.063,非LAI群=0.904±0.111,p=0.913,ES[CI]=
0.04[-0.66,0.74],後外側:LAI群=0.899±0.064,非LAI群=0.891±0.086,p=0.757,ES[CI]=
0.11[-0.59,0.82])また、mWBLTの結果においても有意な差はみられなかった。(LAI群=12.3±
3.305,非LAI群=12.5±3.044,p=0.869,ES[CI]=-0.06[-0.76,0.65])【考察】本研究では、参
加者の選定にあたり、参加者の競技レベルの高さやLAIの基準設定において適切ではなかった
と考察できる。今後の研究では、競技水準の高いスポーツ選手を対象としたLAIに該当する基
準について考察し、mSEBTおよびmWBLTの測定の有効性について検討したい。