抄録
【トレーニング現場へのアイデア】ベンチプレス(BP)の中強度及び高強度において、速度低
下率(VLC)10%条件では、高い速度を維持できるセット数が多く、VLC30%条件では、そのセッ
ト数が減少する傾向であった。またVLC10%条件における反復回数はすべてのセットにおいて同
等であるにも関わらず、高強度では中盤のセットにおいて速度が低下し、中強度ではその傾
向がみられなかった。VLC30%条件では、反復回数や挙上速度の低下が顕著であった。よって、
VBTにおける蓄積疲労の観点より、許容されるセット数は、強度及びVLCの組み合わせによって
異なる可能性がある。
【目的】Velocity-based training(VBT)は、相対強度を基準(PBT)とする方法と比べ、少な
い仕事量で高いトレーニング効果を得られる特徴がある。VBTではセット内の挙上速度を測定
し、個別にトレーニング負荷を決定するため、セット内における過剰な疲労を抑制できる利点
があるが、セット数の増加によって生じる蓄積疲労の影響については不明である。本研究では
BPでの中強度~高強度に相当する速度領域に対し、異なるVLCを用い、疲労抑制の観点から許
容されるセット数を検討した。
【方法】実験環境:研究機関のトレーニングルーム(9~11月)。実験参加者:運動習慣を有す
る健常な男子大学生20名(年齢:20.3±1.6歳、身長:170.9±5.9cm、体重:67.2±8.2kg
BP1RM:75.2±17.6kg、BP1RM/BW:1.12±0.25)とした。実験手順及び分析方法:実験参加の同
意を得た後に、事前測定として身体組成、BP1RMを測定した。試技の強度は、速度を基準に0.45
~0.55m/s(高強度)、0.6~0.7m/s(中強度)の2条件を設定した。反復回数の決定には,セッ
ト内のVLCを用いて評価し、VLCの閾値を10%および30%の2条件とした。強度及びVLCを組み合わ
せた4条件の試技を合計8セット行った。試技中はリニアポジショントランスデューサーを用い
てパラメータを記録し、各セット終了直後に主観的疲労度(RPE)を聴取した。これらの試技
は、ランダムかつ別日にて行った。統計分析:各試技条件におけるセット毎のパラメータ変化
は、1要因の分散分析を用いて検討した。
【結果】セット毎の反復回数は、高強度及び中強度でのVLC10%条件で、有意な差は認められず、
1セット目と比較して高強度VLC30%条件では、4セット目に、中強度VLC30%条件では、3セット
目に有意に低下した。平均速度および最大速度では、中強度VLC10%条件において有意差は認め
られず、高強度VLC10%条件では、1セット目と比較して4セット目に、高強度VLC30%条件では、
3セット目に、中強度VLC30%条件では、2セット目に有意に低い値を示した。
【考察】BPにおいてVLC10%を指標とする場合、高強度では4セット程度、中強度では8セット程
度まで疲労の影響は許容されると考える。一方、VLC30%では、3セット以内にすることで過剰
な疲労を抑制できる可能性がある。