抄録
【現場へのアイデア】サッカー熟練者においてボールインパクト時の股関節および膝関節屈曲
角度が大きいほどボール飛距離が増加することが示唆された。今後、筋力やその他身体的要素
を考慮してさらなる検証を行う必要性があるが、ボールインパクト時の下肢関節角度がボール
飛距離向上のための主な要因になりうる可能性があると考える。
【目的】サッカーのキック動作には下肢関節角度が影響することが知られているが、下肢関節
角度とボール飛距離の関連性を検討した研究は多くない。本研究の目的は、インステップキッ
クを3相に分け、関節角度と飛距離の関連性を明らかにするものである。
【方法】
実験または測定環境:ボール飛距離は屋外グラウンドにて測定し、関節角度測定は3次元解析
システムが導入されている室内にて実施した。
実験または測定参加者:対象者はサッカー熟練群9名(20.2±0.8歳、173.8±4.0cm、66.1±
7.4kg)および非熟練群5名(21.6±0.5歳、172.5±5.5cm、61.6±8.5kg)とし、熟練群の選定
基準は中学・高校の6年間以前からの継続的なプレー経験がある者とした。
測定方法:下肢関節角度の計測は3次元動作解析システム(Vicon Nexus)を使用し、股関節と
膝関節角度を最大股関節伸展位(以下MHE)、最大膝関節屈曲位(以下MKF)、ボールインパクト
時(以下BI)の3相で検証した。カメラは8台で、反射マーカーは計35箇所に貼付した。室内の
環境を考慮し、キック動作には市販の風船を用いた。
統計解析:統計解析は、初めにt検定を用いて熟練群と非熟練群のボール飛距離を比較した。
次に3相計6つの関節角度とボール飛距離を熟練群と非熟練群に分け、それぞれの関連を検討す
るためにPearsonの積率相関係数を用いた。
【結果】ボール飛距離は熟練群45.2±3.4m、非熟練群28.4±1.5mであり、有意差がみられた
(p <0.05) 。ボール飛距離と股関節・膝関節角度で有意な正の相関を認めたのは、熟練群にお
けるボールインパクト(以下BI)の股関節屈曲角度(r=0.72、p <0.05)と膝関節屈曲角度(r=0.65、
p <0.05)であった。このときの熟練群におけるBIの股関節屈曲角度は32.9±13.5°、膝関節屈
曲角度は47.1±15.2°であったのに対し、非熟練群はそれぞれ35.2±7.5°と 56.7±11.4°で
あった。
【考察】風船を使用したキック動作の測定に関する報告は多くないが、BIにおいて本研究熟練
群の角度と同等の値を示した先行研究が存在する為、本研究は測定方法として妥当性があると
考えられる。また、結果において、BIの熟練群と非熟練群の膝関節角度で値に差が出た要因は、
熟練群でキック時に下肢多関節運動が生じた結果、効率的な膝関節伸展運動が可能となり、非
熟練群よりも膝関節屈曲角度が小さくなった影響だと推察できる。