抄録
【現場へのアイデア】Modified Star Excursion Balance Test(以下、mSEBT)とは、 片脚立位
時における遊脚のリーチ距離を測定し、動的姿勢制御を評価するテストである。簡易な準備で
測定可能であることから、研究だけでなくフィールド上での測定にも広く用いられている。し
かし、筆者らの研究活動やスポーツ現場でmSEBTを測定した経験から、mSEBTにおける評価は背
屈可動域と深く関連していることが予想され、動的姿勢制御の測定という定義は適切ではない
可能性が推察される。本研究の結果は、mSEBTから得られる測定値の意味をより深く理解する
ために有用であると考える。
【目的】本研究では、mSEBTと荷重時背屈可動域の関係性を明らかにし、mSEBTにおける評価の
意味を再考することを目的とした。
【方法】
測定環境:大学内講義室。
測定参加者:健康な大学生男子サッカー選手120名240脚(年齢:19.78±0.79歳、身長:
173.54±5.79cm、体重:66.76±5.75kg、競技歴:12.33±2.05年)。 除外基準は1)神経筋系の
疾患がある場合、2)三半規管の疾患がある場合、3)脳振盪を6か月以内に起こしている場合、
4)その他、姿勢制御に影響を及ぼすケガや疾患を有している場合とした。
測定方法:mSEBT は1本の角材に爪先で押すことができるスライダーを装着し、レーザー距離
計にて最大リーチ距離を測定した。前方、後内側、後外側の3方向への最大リーチ距離を3回測
定し、各方向の平均値を算出した。平均値は脚長で除し標準化して分析に使用した。荷重時背
屈可動域はWeight Bearing Lunge Test(以下、WBLT)を用いて評価した。WBLTは、壁を0cmとし
て垂直にメジャーを床に張り、その上で前方ランジを行い、踵が浮かずに壁に膝が接する最大
距離を測定した。
統計解析:mSEBTの各方向とWBLTとの関係についてピアソンの相関係数(r)を算出した。有意
水準は5%未満とした。
【結果】WBLTと前方mSEBT(r=0.45, p=0.001)は中程度の正の相関を示した。WBLTと後内側
mSEBT(r=-0.035、p=0.59)、 WBLTと後外側mSEBT(r=-0.029、p=0.66)に有意な相関はなかった。
【考察】本研究の結果、mSEBTにおける前方最大リーチ距離とWBLTに中程度の相関があることが
示された。このことから、前方mSEBTは動的姿勢制御に加えて、荷重時背屈可動域が関係する
総合的な機能評価である可能性が考察された。今後は慢性足関節不安定症を有する対象者に基
づく検証が必要である。