2019 年 10 巻 1 号 p. 1_111
(緒言)
メタボリックシンドローム(Mets)は2型糖尿病を増加させ(Lorenzo, et al., 2003),心血管疾患者死亡率(Maaria, 2002),癌発症(Gallagher, et al., 2013)をも高めることが報告されている.わが国の糖尿病罹患者は全人口の11.2%を示し(厚生労働省,2013),全世界平均7.9%を上回り(WHO),いまや糖尿病予防は緊急課題であり,効果的な方策が希求されている.厚生労働省は平成20年よりMets対策のため特定健診・保健指導を開始した.
我々は,これまでに千葉県内某事業所従業員256人(40~60歳)の特定健診結果と食事調査結果を分析し,Mets罹患と「夕食のまとめ食い」「夜遅い食事」などの食生活スタイルに関連がある事を明らかにした.
本研究では,Metsリスク保有者に対し,糖尿病発症予防のためのライフスタイル教育プログラムを開発することを目的とし,指導経験の長い管理栄養士が行っている糖尿病発症予防のための指導内容を質的統合法により検討した.
(研究方法)
1.対象:特定保健指導に従事した経験があり,かつ本研究の趣旨に同意を得た管理栄養士5人.
2.データ収集方法:5人の管理栄養士を対象に,「特定保健指導において,血糖値コントロールに効果が見られた食事・生活習慣の改善内容」をテーマに約2時間,スモールグループディスカッション(SGD)を実施した.
3.分析方法:質的統合法(KJ法)(川喜田二郎,1970)を用いた.第1段階として各人の経験を付箋に記入したラベルを作り,類似したものを集め,グループを編成し表札を作った.第2段階では,それぞれの表札の関係性を図解した.
(結果)
1.対象の管理栄養士経験年数の平均は23年,特定保健指導経験年数は6年であった.
2.第1ステップでは,全体ですべてのラベルは38枚あった.その内,血糖コントロールに関するものは27枚あり,全体の71%を占めた.
一方,Mets改善のため適正な体重管理についてのラベルは8枚(21%)と少なく,優先度が低い表札に脂質の摂取量に関連する項目が含まれた.また,禁煙管理のラベルがなかった.
第2ステップの表札では,『食後血糖値を上げ過ぎない食事』,『空腹時血糖値を上げ過ぎない食事』,『体重管理に関わる食・生活習慣』,『脂質・コレステロールのコントロール』の表札が作られ,4つのカテゴリーに分けられた.
3.上記の結果より,4つのカテゴリーにつながる具体的な食・生活習慣改善のためのアドバイスを抽出し,栄養教育媒体「健康マネジメント手帳」を作成した.
(考察)
Metsリスク保有者に対し,エネルギーコントロール源である脂質を減らす指導は優先度が低く,体重管理よりも糖質の量・摂り方等の血糖コントロールに重点を置いた指導を実施していることが明らかとなった.特定保健指導は内臓脂肪蓄積の改善により,Metsリスクが減少することを目的としている.しかし糖尿病発症予防のためには,現在の特定保健指導より踏み込んだ,血糖コントロールの栄養教育のスキルが求められた.そのため,マニュアルとなる栄養教育媒体が必要であることがわかった.
また,血糖・Metsコントロール共に影響する禁煙管理について,ラベルが作れなかったことから,禁煙管理の重要性を再認識する必要があると示唆された.
本研究は平成29・30年度継続研究である.これまでの成果により開発した,栄養教育媒体「健康マネジメント手帳」を教材とした,糖尿病発症予防のためのライフスタイル教育プログラムを構築し,平成30年度は介入試験によりプログラムの効果評価を実施する.
(倫理規定)
本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の 承認を得た(倫理審査番号:2016-5).