2025 年 16 巻 1 号 p. 1_155
(緒言)
本研究は,栄養教諭及び学校栄養職員(以下「栄養教諭等」)の配置の現状と課題を,千葉県を事例として明らかにすることを目的とする.栄養教諭は給食業務だけでなく,子どもの現代的健康課題に対応するという重責を担う.ところが栄養教諭制度創設時に国の配置基準は改善されず,それがゆえにいまだ栄養教諭と学校栄養職員が併存し,栄養教諭の配置数を学校栄養職員の配置数が上回る地域が存在している.千葉県もその一つである.複雑な制度のもと,栄養教諭免許の意義は薄れ,栄養教諭だけでなく学校栄養職員にも負担が生じているのではないか.本研究はこうした問題意識のもと,千葉県の現職の栄養教諭等へ質問紙調査を実施し分析を行い,今後の改善策を提示することを目指した.本研究は千葉県という一県を事例とするが,複雑な要素の多い千葉県から引き出される現場の諸相は一県に留まるものでなく全国に共通するものである.本研究の成果により栄養教諭制度再考の視座を獲得したい.
(研究方法)
本研究では,まず顕在的側面として栄養教諭等の関係法令を整理し,現在の全国の栄養教諭等の採用・配置状況を概観した上で千葉県の現況を描出した.それを踏まえ潜在的側面の解明を狙って,「栄養教諭免許への考え方」「職務への負担感・職務上の困りごと」「今後の栄養教諭等の配置政策への意向」という観点から質問紙調査を実施した.以上の研究成果を総合的に検討し,結論として栄養教諭制度の改善策を提案した.質問紙は千葉県内の全ての義務教育諸学校及び共同調理場の合計約1,200校(施設)に郵送し,栄養教諭等合計423人から郵送及びウェブで回答を得た(調査時点で栄養教諭311人,学校栄養職員375人,回答率61.66%).データ収集は令和5年8月1日〜令和5年9月15日に実施した.
(結果)
関係法令の整理と全国の栄養教諭等の採用・配置状況から千葉県が小規模の給食単独実施校を多数有し,多くの市町村費負担学校栄養職員を配置していること,それゆえ容易に学校栄養職員から栄養教諭への移行が進まない状況が看取された.質問紙調査の結果からは,市町村費学校栄養職員に栄養教諭への移行試験の受験資格がなく栄養教諭免許取得のメリットが薄いこと,しかし全体でみると免許取得や栄養教諭への移行を希望する者の意思は継続しており,免許の意義が薄れているとはいえない状況が示唆された.職務への負担感や困りごとについては,栄養教諭・学校栄養職員(免許あり)・学校栄養職員(免許なし)の三群間で比較分析した結果,多くの項目において差は認められず一様に負担感を持つことが示された.複数校掛け持ちに対する負担感は栄養教諭に顕著であった.今後の配置政策への意向についても栄養教諭は,「栄養教諭のみを新規採用する」ことを志向する傾向にあり学校栄養職員とは考えが異なるとみられる.
(考察及び結論)
以上の結果から免許の意義は薄れていないと思われるものの全体の負担感は少なくなく,とりわけ栄養教諭の負担は大きい.これが一部の学校栄養職員が栄養教諭への移行を望まなくなる要因ではないかと推察される.本研究で明らかになったことを踏まえ今後栄養教諭等への聞き取り調査を行う予定であるが,この環境では全ての子どもの健康課題に応じるのは困難だと考えられる.栄養教諭等の負担軽減のためには国庫負担のない県費負担栄養教諭の加配が有効であるが,もっといえば国の配置基準の引き上げが肝要であり,その前提として学校給食を無償化に留まらせず,国の義務とすることが必須である.
(倫理規定)
本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施したものである(承認番号:2023-11).本発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.
(研究成果の公表)
日本教育学会第83回大会,2024年8月29日広川単独口頭発表(於名古屋大学).