抄録
リウマチ性多発筋痛症(Polymyalgia Rheumatica:PMR)は,近位筋の疼痛,朝のこわばりを症状とする滑膜炎を伴う高齢者に多い慢性炎症性疾患であるが,少量のステロイド薬(プレドニゾロン換算で15mg/day)が著効するのが特徴とされる.しかし,ステロイド薬中止後50%の患者で再発が認められ,30~39%の患者において6年以上に及ぶステロイド薬の加療を要し,その結果43-65%の患者でステロイド薬の合併症を併発することが報告されている.そのため,ステロイド薬の速やかな減量が可能な,もしくは代替する治療薬の開発(unmet medical need)が強く望まれている.低分子化合物として,メソトレキサートやアザチオプリン,生物学的製剤として,infliximabやetanerceptなどのtumor necrosis factor阻害薬が候補薬として,PMR に対する有効性,安全性を検証する試験が施行もしくは進行中であるが,未だevidenceレベルは低く,推奨には至っていない.
Interleukin-6(IL-6)は,滑膜炎症局所へ浸潤しているCD4陽性細胞やマクロファージ,たとえ臨床上巨細胞性動脈炎(Giant cell arteritis:GCA)を合併していないPMR 患者の側頭動脈壁や,筋間質組織においても過剰発現していることが報告されている.また臨床上,血清中のIL-6濃度が最も鋭敏なPMR の活動性マーカーと認識されている.PMRは,CRPやmatrix metalloproteinase 3(MMP3)の上昇ともに,高度な全身や滑膜炎の炎症所見を呈する疾患であるが,IL-6の作用を考えると,PMR の発症においてIL-6が中心的な役割を果たしているものと示唆される.事実,阪大病院では,IL-6受容体拮抗薬であるトシリズマブが有効であったPMR 症例や,PMRと類似性疾患と考えられ,発症病態として,IL-6とvascular endothelial growth factorが関与すると推測されているRS3PEに対してもトシリズマブが有効であった症例も経験した.最近,諸外国より,PMRやGCAを伴うPMRに対して,トシリズマブのステロイド減量効果や単独治療による寛解導入など劇的な効果が報告されており,今後の臨床試験での有効性,安全性の評価が待たれる.