1995 年 24 巻 p. 8-18
函館湾葛登支の潮間帯転石域において,ヒラトゲガニの生殖周期,繁殖行動を調べた.雌雄生殖腺の生殖細胞の発達と抱卵雌の出現時期から,産卵期は10月から11月で,雌は1年に1回産卵し,約110日間抱卵することが明らかになった.雌の性成熟サイズは甲長約8mm(約2才)と推定できた.産卵に先立ち,雄が左鉄脚で成熟雌の体をはさみ持ったり,雌に覆いかぶさるガード行動が見られた.ガード行動は同じ科に属するタラバガニ亜科では知られているが,ヒラトゲガニ亜科では初めての報告である.ガードされている雌は,脱皮を行なった後に,1日以内に交尾・産卵を行なう.ガード行動の意義は成熟雌を確保することにあると考えられる.これら一連の繁殖行動は既知のタラバガニ亜科のそれとよく似ており,繁殖行動からみた両亜科の類縁性が示唆された.