ワタリガニ科のカニ類の鉗脚は左右不相称である.その程度は種によって異なり,かなり顕著な場合,ほとんど目立たない場合などさまざまである.従来報告された研究では,すべて元来は右大で,左大個体は自切して右鉗脚が失われた場合に転換によって生じるとされてきた.筆者らはその見解に疑問を持ち, 4種について,なるべく多数の標本を採集すると共に,鉗脚の左右性と甲幅との関係について統計的検定を行った.その結果,3種,フタバベニツケガニThalamita sima,フタホシイシガニCharybdis(Gonioneptunus) bimaculata,イシガニCharybdis(Charybdis) japonicaでは甲幅が増加しても,それに伴って左大個体の割合が有意に増加することは無いことが判明した.これらは右優性種ではあるが,左大個体の大部分は生まれつきの左大であり,転換によって出現したものではないことが裏付けられた.しかし,ヒメイボガザミPortunus(Monomia) argentatus では,小型個体では左大個体の割合が至って小さく,大型個体において有意に大きくなる.この種は元来はすべて右大で,転換によって左大個体が生じていると思われる.
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