2008 年 4 巻 p. 41-50
近年,初等教育における英語教育が広く行われるようになってきている中で,その学習成果を中等教育以降の学習に活かすカリキュラムの開発が多くの国で課題となっている。オランダもそのような国の一つであり,1986年に初等教育における英語教育が必修化されてから20年余りに渡ってこの課題に取り組んでいる。1993年の教育改革以降,中等学校において場面や機能を中心としたコミュニケーション重視の教授法が定着してきたことは初等・中等教育において言語学習に関するアプローチ上の共有基盤を与えることになったが,連続性のあるカリキュラムが整備されるには至らなかった。その原因の一つとして,そのようなカリキュラムをデザインするための枠組みが欠如していたことが挙げられる。しかし現在では,ヨーロッパ協議会が2001年に示したCommon European Framework of Reference for Languages(Council of Europe, 2001)がまさにこの枠組みを提供しており,ヨーロッパ各国ではこの枠組みに準拠して開発されたEuropean Language Portfolio(ELP)を開発・普及することで異なる教育段階におけるカリキュラムの連続性を高めようとしている。本論文では,カリキュラムの連続性という観点からオランダの事例を取り上げ,ELPの果たす役割と課題について論じる。具体的には,教授・学習の成果に関する情報の共有,学習者を中心としたカリキュラムの共有,教授・学習におけるアプローチの共有という3つの観点から総合的に連続性が高められると期待される。