17世紀後半、フランス音楽の新しいジャンルとなったオペラは、当時の教養人の間に賛否両論を巻き起こした。本論では、実質的にオペラについて論じた最初の人物であるサン=テヴルモンの著作『オペラについて』の考察を通して、リュリ時代のオペラ観について検討する。サン=テヴルモンは、宮廷やサロンで音楽中心の生活を送り、クラヴサン演奏や作曲の素養もあった人物であるが、彼はこの新しいスペクタクルが「精神性」や「真実らしさ」を欠き、フランスの古典的美の基準に反しているとして非難した。彼はジャンルとしてのオペラを批判したのであり、それゆえヴェルサイユで最高の作曲家であったリュリを賞賛したこととは矛盾しないのである。