昭和歯学会雑誌
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大理石骨病 (oc/oc) マウスの大腿骨および下顎骨における破骨細胞の微細構造および液胞型H +-ATPaseとcathepsinKの分子発現
礒 良枝
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2003 年 23 巻 2 号 p. 95-106

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抄録

大理石骨病は石灰化軟骨および海綿骨の吸収不全による骨硬化症を惹起する遺伝性の疾患で, そのうちマウスで発症するosteosclerosis (oc/oc) では破骨細胞の骨吸収能の低下が報告されている.そこで著者は, oc+の親から生まれた新生児マウス (以下oc/ocマウス) の大腿骨成長板の骨化帯と下顎骨における破骨細胞を微細構造学的に観察し, あわせて破骨細胞の機能的分化の指標となる液胞型H+-ATPaseとカテプシンKの分子発現を解析した.oc/ocマウスの大腿骨と下顎骨の非脱灰試料の反射電子像では, 骨成長の抑制, 骨髄腔の狭窄, 海綿骨梁と皮質骨の吸収不全が観察された.成長軟骨板の石灰化軟骨と一次海綿骨梁の置換部位に出現する破骨細胞には, 接する基質の性状に依存して形態的変化が認められた.未石灰化軟骨基質上で肥大軟骨細胞に近接する破骨細胞は波状縁と明帯を全く形成せず, 小型の細胞突起を多く派生した.細胞内には破骨細胞に特徴的な空胞形成が少なく, 細胞突起付近に径0.15-0.6nmの有芯小胞が密に分布していた.同じ予備石灰化帯で部分的に石灰化組織を含む軟骨基質上に位置する破骨細胞は, 軟骨基質に面して小型の明帯様構造を示したが, 細胞内には空胞形成が少なく, 有芯小胞が多く観察された.石灰化軟骨上に位置する破骨細胞は有芯小胞を有し, 幅広い明帯を形成したが, 石灰化軟骨表面には明瞭なlamina limitansが観察され, 破骨細胞からの酸分泌の抑制が示された.骨基質上に位置する破骨細胞は幅広い明帯で骨基質に接し, 波状縁は観察されなかった.細胞内には明帯に近接して多くの空胞が集積していたが, 有芯小胞は観察されなかった.破骨細胞の接する骨表面には明瞭なlaminalimitansが観察される部位と観察されない部位が混在し, 破骨細胞が不完全ながらも部分的に骨吸収能を発現している可能1生が示された.このようにoc/ocマウスの破骨細胞の微細構造は, 接する基質が未石灰化軟骨基質, 石灰化軟骨基質, そして石灰化骨基質かによって異なることが示され, いずれの場合も完全な波状縁形成には至らないことが共通した微細構造学的特徴と考えられた.さらにoc/ocマウスの破骨細胞におけるH +-ATPaseとカテプシンKの分子発現をコロイド金法で免疫電顕的に解析したところ, H +-ATPaseの局在を示すコロイド金粒子の沈着は破骨細胞の空胞や細胞質上に観察され, 明帯や形質膜に沿った沈着は観察されなかった.またカテプシンKの分子発現は破骨細胞内の空胞に観察され, 骨基質上での反応は観察されなかった.以上の観察結果から, 破骨細胞の構造的ならびに機能的分化は細胞外基質の性状に依存すること, またoc/ocマウスの破骨細胞における骨吸収不全は, 波状縁形成の抑制と同時に波状縁へのH +-ATPaseとカテプシンKの細胞内輸送の阻害にあることが示唆された.

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