Dental Medicine Research
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培養ヒト歯根膜細胞における各種腱・靱帯マーカー遺伝子の発現制御
三井 将小林 誠森高 俊一郎臼井 通彦小出 容子山本 松男
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2008 年 28 巻 3 号 p. 137-149

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抄録

腱・靱帯マーカー分子の多くは腱・靱帯や歯根膜の創傷治癒や恒常性維持のみならず, 軟骨形成や軟骨細胞分化に関与することが報告されている.また, Transforming growth factor-β (TGF-β) は腱の創傷治癒や軟骨細胞分化を促進することが明らかにされている.しかし, 歯根膜細胞における腱・靱帯マーカー分子の発現調節機構は不明な点が多い.そこで本研究では, 軟骨を誘導する条件下で培養したヒト歯根膜細胞 (HPLC) における種々の腱・靱帯マーカー分子の発現動態をヒト問葉系幹細胞 (HMSC) と比較し, 併せてTGF-β3がHPLCにおけるこれらの分子の発現に及ぼす作用を検討した.その結果, HPLCとHMSCはともに腱・靱帯マーカー分子であるPeriostin, Periodontal ligament associated protein-1 (PLAP-1) /Asporin, Biglycan, Decorin, Cartilage oligomeric protein (COMP), Scleraxis, Growth anddifferentiation factor-5 (GDF-5) の遺伝子を発現していた.また, 各細胞をTGF-β3含有軟骨分化誘導培地でペレット培養して軟骨細胞への分化を誘導すると, 分化誘導開始3週後において, HMSCのみで軟骨基質であるType II collagenの発現が認められた.しかし, この過程における各腱・靱帯マーカー分子の発現パターンは両細胞でほぼ一致していた.すなわち, 両細胞共, 軟骨細胞への分化誘導開始1, 2週後において, Periostin, PLAP-1/Asporin, Biglycan, Decorinの遺伝子発現は分化誘導しない場合と比較して増加し, 一方COMP, GDF-5の遺伝子発現は減少し, Scleraxis遺伝子の発現は変化しなかった.また, 単層培養したHPLCをTGF-β3で単独刺激すると, Periostin, PLAP-1/Asporin, Biglycan, Scleraxis, COMPの発現は増加し, 一方GDF-5の発現は減少し, Decorinの発現は変化しなかった.以上の結果から, これらの腱・靱帯マーカー分子の発現は間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化誘導過程で変化し, その分化を制御している可能性がある.また, 歯根膜細胞におけるこれらの分子の発現も軟骨が誘導される環境下やTGF-β3の刺激により同様に変化して, 歯根膜の創傷治癒や組織恒常性の維持に関与していると考えられる.

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