日本皮膚科学会雑誌
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尋常性乾癬のコルチコイド密封療法に関する電子顕微鏡的観察 ―とくにコルチコイドの経皮吸収について―
木村 晴世
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1969 年 79 巻 6 号 p. 417-

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抄録

卒直にいうと,本研究を企図した当初の目的はコルチコイド(以下「コ」と略)軟膏による密封療法(以下ODTと略)の経表皮吸収の有無を電顕的に検討することであつた.周知の如く,「コ」軟膏は単純塗擦では尋常性乾癬の如き表皮性の慢性症状にはほとんど無効であるが,ODTを施すと素晴らしい効果を発揮する.かくしていまや本療法は最も優れた外用療法として,広く一般に使用されているが,遺憾ながら,その奏功機転に関しては果して経毛嚢吸収の増進によるのか,角質層に新たな吸収経路が別に開かれるためか,それともその両者によるのか,未だ判然としないのである.教室の桑原も述べているように,「コ」の経表皮吸収に関する研究はすでに多数の報告があるが,その大半は尿中の17-OHCS測定値より類推したもので,もちろん本研究の目的に適切な方法とはいえない.唯その内Malkinson & Kirschenbaumがgas flow cellを用いて,皮膚に貼付した一定量の放射性「コ」を,一定時間後皮表から回収して,その値から吸収量を逆算したいわゆるresidual radioactivity法と,Scott & Kalz,久木田,桑原らがすでに実施しているautoradiography法とが一応利用できそうであるが,これまで教室でこの両者を追試した結果では,前者は一定範囲に正しく一定量を貼付することが案外難かしく,また皮上に残存する「コ」軟膏を完全に回収することも至難の技術であつた.また後者は放射性「コ」顆粒が,放射性tyrosineを用いてmelanocyteのmelanin形成状態を窺う場合の如く,細胞内に集団をなして観察されるのと異なり,個々の「コ」顆粒が,主として表皮角層の間隙を通つて,真皮に侵入するため,余程注意深く観察しないと見落す心配があり,そのためか本法も細部に関しては未だ報告者ごとに意見が異なるようである.ところでもう一つ,これは誰でも一応考えることであろうが,電子密度高く,且つ標本作製中に失われる心配のない特殊の微細顆粒を用いて電顕的に仔細に観察する方法がある.申すまでもないが,「コ」は可成り水に溶けやすく,固定その他の操作中に失われる公算が大きく,これまた本研究には適さない.そこで後述する如く,種々検討した結果carmine顆粒を選び,本剤を1%親水軟膏として健康皮膚ならびに尋常性乾癬皮膚にODTを施し,同部の皮膚で電顕的観察を試みた.一方対照に用いたこれらの皮膚を無処置のまま,あるいはこれに「コ」ODTを施し,詳細に電顕像を観察した.かくて実験を進めるうちに,初め対照として観察した尋常性乾癬の「コ」ODT前後の標本にも未だ報告をみない2,3の知見を得,また一方その成績から,薬物の経皮吸収には多少とも疾患特異性があるように臆測されるので,取り敢えず,研究課題を表記の如く改めた次第である.したがつて今でも研究の本来の目

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© 1969 日本皮膚科学会
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