多汗症に対するA型ボツリヌス毒素局注療法は発汗量に合わせて投与量を考慮する必要がある.頭部・前額部多汗症に対するA型ボツリヌス毒素局注療法は臨床研究の結果から,投与2週後より発汗量の著明な低下がみられ,一過性で軽度の眼瞼下垂を一部に認めたが,比較的安全に施行することができた.換気カプセル法で発汗量の有効性が消失した時点でも,A型ボツリヌス毒素局注部の中心は同心円状に発汗抑制効果が一部保持されており,HDSS,DLQIが低値である理由と考える.
発汗異常は,多汗・無汗といった量的異常のみならず,色汗やsticky palmにみられる性状変化,暑熱や運動時の皮膚感覚異常,さらには血管反応との関連など,きわめて多彩な臨床像を呈する.これらはしばしば自律神経障害,内分泌・代謝疾患,脊椎病変,皮膚疾患,薬剤,手術既往など身体内部の異常を反映しており,診断学的価値は高い.本総説では,筆者が経験した雑多な発汗異常症例を体系的に整理し,続発性多汗症・続発性無汗症,血管性発汗異常,そして比較的ニッチなsticky palmに至るまで,発汗評価がどのように鑑別診断の道筋を形づくるかを概説する.あわせて当施設で行っている発汗検査の実際と,症例ごとに診断へ至った臨床思考プロセスを提示し,日常診療で遭遇する発汗異常を理解する上で有用な視点を提供したい.
特発性後天性全身性無汗症は若年男性に突然発症し,体温調節障害をもたらすだけでなく,コリン性蕁麻疹や皮膚疼痛症状をしばしば伴い,患者の生活に大きな制約をもたらす.ステロイド治療に反応することから,免疫系の過剰な活性化が病態に関与していることが想定されているが,ステロイド治療に抵抗性あるいは再燃を繰り返す患者も多い.本症の病勢や治療成績は季節の影響を受けることにも留意して診療にあたる必要がある.
61歳女性.長期血液透析患者で5年間ワルファリン(WF)を内服中に,下腿に樹枝状の紫斑を伴う壊死性潰瘍を認めた.病理組織検査で真皮血管内の血栓像を認め,血中のProtein C(PC)活性低下より,WF起因性皮膚壊死と考えた.本疾患はWF内服直後の発症が多く,長期内服例は稀である.自験例は機械弁のため,WFを少量再開したが,再燃を繰り返した.背景に透析による慢性的なビタミンK欠乏状態があり,WF再開によりPCが低下し潰瘍が再燃した可能性を考えた.