先天性爪甲肥厚症(pachyonychia congenita;PC)は,爪甲肥厚および鶏眼形成,多発脂腺囊腫を呈する希少疾患である.本稿ではPC患者のQOL低下につながる鶏眼と多発脂腺囊腫,さらに最近の治療研究についての話題を概説する.
遺伝性疾患は単一遺伝子疾患と多因子疾患に大きく分けられる.ほとんどの魚鱗癬は単一遺伝子疾患だが,自己炎症性角化症には多因子疾患が含まれるため,遺伝学的検査の解釈には注意が必要である.本セミナリウムでは,私たちが行っている遺伝学的解析の方法と,単一遺伝子疾患と多因子疾患の違いを概説し,魚鱗癬と自己炎症性角化症についての最近の知見を述べる.
遺伝性毛髪疾患は2010年代に急速に新規原因遺伝子の同定が進み,近年新規原因遺伝子が同定される頻度は少なくなっている.一方,症例の蓄積により新たに分かってきたこともある.また,様々な毛髪疾患において疾患感受性遺伝子が同定されつつある.本稿では,単一遺伝性毛髪疾患のこの数年におけるアップデートされた情報とFrontal Fibrosing Alopeciaの疾患感受性遺伝子について概説する.
男性乳癌は,解剖学的特性により女性例に比べて早期から皮膚表面に症状が現れやすく,そのため最初に皮膚科を受診するケースが多いとされる.院内がん登録に基づく過去23年間の全乳癌8,099例中,男性乳癌は29例(0.4%)で,そのうち8例が皮疹を主訴に皮膚科を初診していた.これらの8例全てにおいて,病変は乳輪部(E領域)に認められ,乳頭部のびらんのみが見られる症例も含まれていた.男性乳輪部の皮疹を見た際には,乳癌の可能性も念頭に置き,軽微な所見であっても積極的に組織学的評価を行うことが重要である.
症例は72歳,女性.30歳代より四肢に瘙痒性皮疹が出現した.50歳代で当科を初診した際は四肢に搔破痕を伴う紅褐色丘疹が多発し,両下腿では苔癬化局面を形成していた.病理組織学的に表皮真皮接合部に裂隙を認め,真皮上層に多数の角質囊腫とリンパ球主体の炎症細胞浸潤を認めた.ステロイド外用で皮疹は改善せず,通院を中断していたが,皮疹の悪化により当科を再診した際に精査を行い,COL7A1遺伝子に新規の変異をヘテロ接合性に認めた.また,血縁者の複数に同様の症状を有する者がいることから痒疹型顕性栄養障害型表皮水疱症と診断した.ウパダシチニブを投与したところ,瘙痒と皮疹は著明に改善した.