本研究では脳波事象関連電位を用い,暑熱環境下で自転車エルゴメータによる有酸素運動を行い,脱水・飲水が運動遂行過程・運動抑制過程に関わる認知機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.実験には15名の成人男性被験者が参加した.脱水条件および飲水条件において,体性感覚刺激Go/No-go課題を行い,自転車エルゴメータによる運動前(Pre),15分間×4セットの運動セッション後(Post),1時間の冷却後(Recovery)に事象関連電位を計測した.生理指標・血液データとして,食道温,平均皮膚温,心拍数,平均血圧,血漿浸透圧,ヘマトクリット値,ヘモグロビン濃度を解析対象とした.実験の結果,行動指標の反応時間に関し,脱水条件・飲水条件ともにPreよりもPostの方が有意に短くなった.体性感覚認知処理過程を反映するN140成分の振幅は,脱水条件ではPreよりもPost,Recoveryにおいて振幅が有意に低下したが,飲水条件ではそのような差は認められなかった.高次認知機能に関与するP300成分の振幅は,脱水条件ならびに飲水条件においても,条件やセッションの主効果・交互作用が認められず,Pre,Post,Recovery間でも振幅に有意差は認められなかった.これらの結果から,飲水の効果は体性感覚認知処理過程に関わる神経活動に見られ,反応時間などで示される反応実行系や,P300成分として反映される認知処理系には関与しない可能性が示唆された.