デサントスポーツ科学
Online ISSN : 2758-4429
Print ISSN : 0285-5739
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研究論文
  • 小河 繁彦, Fisher James
    2025 年 46 巻 p. 3-11
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    インターバル運動は,心血管疾患に罹患した個人の心血管機能の改善を達成するために継続運動よりも有効性が高いことが評価されている.先行研究では,インターバル運動による内皮機能に関連する血管シェアストレスが継続運動よりも増加することが確認された.しかし,継続運動と比較して,インターバル運動が脳内皮機能を改善し,脳血管疾患のリスクを低下させるかどうかは明らかでない.そこで,本研究ではインターバル運動が脳血管シェアレイト( SR)の増加だけでなく,脳血管内皮機能が継続運動と比較してより改善するかどうかを確認することを目的として実験を行った.7名の健康な男性(平均年齢21±0 .6歳)が実験に参加し,セミリカンビントエクササイズバイクで32分間のインターバル運動及び同じ作業量の継続運動を行った.脳内皮機能( cFMD)は,運動前(事前),運動後15分および運動後40分に測定・評価した. cFMDは,二酸化炭素分圧が約9 mmHg上昇した30秒間の高炭酸性暴露に対する内頸動脈血管径の最大拡張率(基準値からのΔ%)を超音波法により算出して評価した.結果として,インターバル運動および継続運動の試行後にcFMDは基準値から変化せず,条件間に有意な差異は観察されなかった(運動後15分,7 .47± 4.92% vs 5.66±4.21%;運動後40分,5 .91±4.01% vs 6.16±2.26%; p=0.442).これらの結果から,インターバル運動の脳内皮機能に対する有用性は認められなかった.

  • 平林 怜, 江玉 睦明, 岡田 芳幸, 大西 秀明
    2025 年 46 巻 p. 12-20
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    歯の噛みしめは運動パフォーマンスに大きな影響をもたらすが,最適な咬合強度や左右の咬合バランスについては不明である.そこで,本研究の目的は,脊髄機能と青斑核の活性に着目して,不均衡な咬合バランスが遠隔促通効果に及ぼす影響を検討することとした.対象は健常成人として,不正咬合者を除外した正常咬合者14 名とした.咬合計測は,最大咬合力,左右の咬合バランスを計測して,咬合が高い側をHyper 側,低い側をHypo 側とした.筋電図電極は両側の咬筋,前側頭筋,ヒラメ筋に貼付した.咬合条件は歯列の咬合接触がないno-bite 条件,歯列の咬合接触はあるが噛みしめていない接触ありcontact 条件,右咬筋最大随意収縮(MVC)の12.5%,25%,50%MVC 条件とmax 条件の6 条件とした.脊髄興奮性はH波を用いて評価した. H 波の計測は両下肢の脛骨神経に電気刺激をし,刺激強度はヒラメ筋H 波振幅値が最大M 波振幅値の20% になるように設定した.また,青斑核の活動指標として左右の瞳孔径を計測した.解析項目は各咬合条件での各筋の筋活動,左右のH 波振幅値,左右の瞳孔径とした.統計処理として,反復測定二元配置分散分析を行い,事後検定として各咬合条件の比較にはno-bite に対する対応のあるt 検定にBonferroni 補正を行い,Hyper 側と Hypo 側の比較には対応のあるt 検定を行った.いずれも有意水準は5% とした.咬筋と前側頭筋の筋活動 は,12.5%,25%, 50%MVC,max 条件でhypo 側と比較してhyper側が有意に高値を示した(p<0.05). 脊髄興奮性と瞳孔径は no-bite と比較して 12.5%,25%, 50%MVC,max 条件で有意に高値を示した (p<0.05).また,脊髄興奮性はmax 条件でhypo側と比較して hyper 側が有意に高値を示した(p<0.05). 瞳 孔 径 は 12.5%,25%,50%MVC, max 条件でhypo 側と比較してhyper 側が有意に高値を示した(p<0.05).本研究の結果より,左右の咬合バランスの不均衡は,青斑核と脊髄興奮性の活動にも不均衡が生じた.青斑核や脊髄興奮性の不均衡は,認知機能や運動機能に悪影響を及ぼすことが報告されていることから,咬合バランスの補正が重要である可能性が示唆された.

  • 石道 峰典
    2025 年 46 巻 p. 21-32
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    高温環境下での運動による熱中症やその予防において生体内での水分子動態は重要である.しかし,熱中症発症時やその後の水分補給が自由水や結合水といった異なる性質の水分子に及ぼす影響は不明瞭である.本研究では,ラットを用いて高温環境下での走運動による熱中症やその後の水分補給が骨格筋の水分子特性や水分輸送機構に与える影響を検討した.その結果,運動による熱中症やその後の水分補給により自由水量の変化に応じて筋水分含有率が変化することが明らかとなった.一方,ヒアルロン酸濃度に変化はなく,結合水の変化には影響していない可能性が示唆された.また水分子輸送機構であるAQP1 やAQP4の発現レベルに有意な変化は認められなかった.本研究より運動による熱中症やその後の水分補給は,自由水の動態に影響を及ぼす一方で結合水には影響しない可能性が示唆された.また,水分子輸送機構はほとんど影響を受けないことも示された.

  • 林 七虹
    2025 年 46 巻 p. 33-41
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    【目的】活動的な若年女性を対象に,持久性運動後におけるケトン体(β HB)の経口摂取がエリスロポエチン(EPO)およびヘプシジンの分泌応答に及ぼす影響を検討した.【方法】活動的な若年女性8 名(20 ± 1 歳)を対象に,高強度インターバル運動後に25.5gのβHB(8.5g/1時間, 3回)を摂取する(β HB)条件とプラセボを摂取する (CON)条件の2 条件を実施した.運動前,直後, 30 分後,60 分後,120 分後および180 分後に採血を行った.【結果】β HB 条件における血清β HB濃度は運動30分後から180分後まで有意に上昇し,いずれの時点もCON 条件と比較して有意に高値を示した.β HB 条件における血中グルコース濃度は,CON 条件と比較して有意に低値を示した.血清ヘプシジン濃度には,有意な変化は認められなかった.運動180 分後における血清EPO 濃度の変化量には,条件間での有意差が認められた.【結論】若年女性におけるβ HB の経口摂取はEPO 濃度を変化させたが,ヘプシジンの分泌応答に影響 を及ぼさなかった.

  • 白井 礼
    2025 年 46 巻 p. 42-50
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    運動時における筋痙攣は突然に発生する不随意収縮であり,適切な予防対策が重要である.しかし,筋痙攣の生理学的メカニズムは解明されておらず,脳や脊髄などの中枢神経を要因とする説,筋などの末梢神経を要因とする説が挙げられる.本研究ではマトリクス表面筋電図を用いて,腓腹筋外側頭の筋痙攣発生に伴う筋活動様式の変化を明らかにすることを目的とし,利き足関節の底屈運動を行った際の信号計測を行った.結果として,筋痙攣の前兆が発生した際に,空間的筋活動の分布パターンが変化することが明らかとなった.局所的な部位において,筋電信号の振幅が増加し,高周波帯域の信号成分が多く観察されたほか,新たな神経支配帯の出現が認められた.これらの結果は,サイズの原理から逸脱したα運動ニューロンが異常発火したことにより,局所的に強い筋収縮を引き起こす筋痙攣が発生したと推測される.本研究は筋痙攣の発生起源は中枢神経を由来とする説を支持する結果となった.

  • 水野 沙洸
    2025 年 46 巻 p. 51-60
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,有酸素性運動時における異なる様式での血流制限が,血管内皮機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.若年男性6名 (23±2歳) を対象に,最高酸素摂取量の40%強度にて30分間の下肢自転車運動を以下の2条件下にて実施した:1) 血流制限を連続して行う条件 (連続条件),2) 血流制限を断続的 (5分駆血・5分除圧×3) に行う条件 (断続条件).いずれの条件も,動脈遮断圧の80%に相当する血流制限圧を用いた.運動前および運動中は5分ごとに,心拍数および動脈血圧,血管径,血流速度を測定した.運動前および運動後 (10分,60分) に上腕動脈における血流依存性血管拡張反応 (flow-mediated dilation; FMD) を測定した.運動中,平均血圧はいずれの条件においても増加したが,断続条件では連続条件と比較して,運動開始10,20,30分の時点 (除圧時) に有意に低下した.運動時の血流量と剪断速度の推移に,条件間の差異はみられなかった.FMDは,運動終了10分後に両条件で低下した (連続条件:7.7±1.2% → 3.7±1.4%,断続条件:8.0±2.0% → 4.9±1.6%).運動前から運動終了60分後におけるFMDの変化量は,断続条件 (+1.7±2.5%) が連続条件 (-3.1±1.0%) と比較して有意に高値を示した.以上の結果から,血流制限下の運動により引き起こされる血管内皮機能の低下は,断続的な血流制限を用いた場合,その回復が早まるが,これら動態に剪断速度は影響しないことが明らかになった.

  • 江間 諒一、赤木 亮太
    江間 諒一, 赤木 亮太
    2025 年 46 巻 p. 61-68
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    本研究は,女子ラグビー選手におけるハムストリングス筋力の重要性について,競技力および肉離れ発生の観点から検討した.7人制女子ラグビー選手20名が実験に参加した.対象者を,大会参加数でレギュラー群と準レギュラー群に分類した.除脂肪量,伸張性および短縮性膝関節屈曲トルク,ならびに10m走のタイムを計測した.伸張性膝関節屈曲トルクは,ノルディックハムストリング中の筋力を用いた.除脂肪量および筋力については,3カ月後にも計測を行った.除脂肪量と伸張性膝関節屈曲トルクの間にのみ,有意な正の相関関係がみられた.3カ月の競技トレーニングにより,レギュラー群の伸張性膝関節屈曲トルクは有意に増加したが,準レギュラー群の伸張性膝関節屈曲トルクおよび両群の短縮性膝関節屈曲トルクには有意な変化がみられなかった.過去2年間にハムストリングス肉離れを経験していた選手の伸張性膝関節屈曲トルクは,未経験選手よりも有意に小さかった.以上の結果は,ノルディックハムストリング中に発揮される伸張性筋力が,競技力や肉離れの経験と関連することを示唆している.

  • 塩澤 華奈, 石田 浩司, 鍛島 秀明, 遠藤 雅子, 片山 敬章
    2025 年 46 巻 p. 69-77
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,軽強度の動的運動が腹部内臓領域の血流変化に及ぼす女性での加齢の影響を明らかにすることを目的とした.若齢女性10名 (20±2歳,平均値±標準偏差),高齢女性10名 (71±5歳) を対象に,動的膝伸展屈曲運動を30%予備心拍数の運動強度にて4分間行った.心拍数,動脈血圧,腹腔動脈の血流量を連続的に記録した.平均血圧は運動により若齢女性および高齢女性で上昇し,上昇の程度は若齢女性と比べて高齢女性で有意に高値を示した (若齢女性;+12.8±6.9,高齢女性;+27.2±10.3 mmHg,P<0.001).腹腔動脈の血流量は運動開始とともに両群で減少したが,その減少の程度に両群間で有意な差は認められなかった (若齢女性;-100.3±64.5,高齢女性;-84.7±68.9 mL/分,P=0.61).以上の結果から,女性においては,軽強度の動的運動時における腹部内臓領域の血流応答に与える加齢の影響は小さいことが示唆される.

  • 土橋 祥平, 松井 崇, 吉原 利典
    2025 年 46 巻 p. 78-87
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    Regular physical activity in early life is linked to lifelong cognitive health, whereas the effects of early-life physical inactivity on future cognitive function remain unknown. In this study, we examined the hypothesis that physical inactivity during childhood affects DNA methylation in the hippocampus, which is retained over time and leads to cognitive decline in adulthood. Four-week-old male Wistar rats were divided into two groups: a control group (CON) and a physical inactivity group (IN). Rats in the IN group were housed in narrow cages with approximately half of the usual floor space to restrict their movement for 8 weeks until 12 weeks of age. After this period, all the rats were housed in standard-sized cages until 20 weeks of age. The object location task (OLT) was used to assess cognitive function at 19 weeks old. The dorsal hippocampus was collected immediately after the activity restriction intervention (12 weeks old) and 8 weeks after the intervention ended (20 weeks old) for analysis of genome-wide DNA methylation levels (RRBS), RNA-seq, and protein expression levels. The IN group's physical activity decreased to about one-quarter that of the CON group between 4-12 weeks of age. In contrast, there were no significant differences in body weight or food intake throughout the experimental period. The IN group showed poor OLT performance and an increased expression of myelination-related genes and proteins in the hippocampus. However, the expression of these genes was not associated with the changes in DNA methylation induced by early-life physical inactivity. Instead, they are linked to DNA hypomethylation observed only in adulthood. These findings demonstrate that physical inactivity during the young period leads to cognitive decline in adulthood. This may be due to the dysregulation of myelination-related gene expression associated with DNA hypomethylation, a delayed consequence of physical inactivity in childhood.

  • 橋本 祐介, 西野 壱哉, 飯田 健, 荻 久美, 前島 悦子
    2025 年 46 巻 p. 88-97
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    対象と方法 安定期変形性膝関節症 (膝OA) 患者の内,本研究に同意を得た7名を対象とした.研究開始時と3ヶ月後に臨床評価,MRI撮像と採血を行い,血清COMP値を測定した.臨床評価,日常の活動指標 (1日歩数や距離) ,軟骨体積,血清COMP値の相関を検討した. 結果 すべてlow impact sportsの症例であった.血清COMP値が増えると軟骨体積が減るという負の相関傾向を認めたが,その他の日常の活動指標,臨床評価,筋力とは相関を認めなかった.自覚的膝臨床評価 (KOOS;点数が高い方が成績がよい) の変化量は2ステップテスト (数字が高いほうが機能がよい) の変化量と正の相関,ロコモ25 (点数低い方がロコモ度が低い) の変化量と負の相関を認めた. 考察と結論 血清COMP値は早期OA変化を検出できるとされている.本研究においても血清COMP値変化量は軟骨摩耗量を反映しており,軟骨摩耗変化を鋭敏に検出できることが示された.一方,血清COMPと臨床評価が相関しなかった.本症例はlow impact sportsを行う者に限られ,急速な増悪症例は存在しなかったためと考えられる.

  • 染谷 由希, 安澤 佳樹, 塩田 有規
    2025 年 46 巻 p. 98-105
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    [背景] 聴覚に障がいがあるデフアスリートを対象としたスポーツ外傷・障害の調査はほとんど行われていない.本研究は,デフサッカー選手におけるスポーツ外傷・障害の発生率と特徴を明らかにすることを目的とした. [方法] 2022-2023年シーズンにデフサッカーの日本代表合宿に参加した26名 (27.3±4.9歳) を対象とし,スポーツ外傷・障害の発生件数,1000Player・Hours[PH]あたりの発生率,重症度,Injury burdenなどを調査した. [結果] 調査期間中に合計59件の外傷・障害が発生した.発生率は10.1/1000PH,重症度は5.0日,Injury burdenは50.5日/1000PHであった.外傷・障害の89.8%が下肢に発生し,足関節での発生率とInjury burdenが最も高かった (2.7/1000PH,15.2日/1000PH). [結論] デフサッカー日本代表選手におけるスポーツ外傷・障害は,健聴サッカー選手よりも発生率が高く,特に足関節捻挫が多く発生していた.

  • 高橋 涼吾, 金子 直嗣, 石川 慶一, 佐藤 和之, 益城 優芽
    2025 年 46 巻 p. 106-115
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    Standing posture, which is fundamental to various movements and essential for daily life, can be destabilized by various factors, ultimately increasing the risk of falling. One of the factors that increases the risk of falling is the fear of falling. Besides, the activity of the lower limb muscles is crucial for maintaining postural balance, and this muscle activity is generated by the excitation of spinal motor neurons (spinal MNs).Therefore, the purpose of this study was to investigate how fear of falling during standing posture influences the excitability of spinal MNs in the lower limb muscles. Eleven adult males participated in the experiment, performing a static standing task for 90 seconds while wearing a head-mounted display. The task was conducted under three conditions with different levels of induced fear of falling (Low-threat, Medium-threat, and High-threat conditions).During each condition, transcutaneous spinal cord stimulation (tSCS) was applied to a lumber region 15 times. The motor-evoked responses from the vastus lateralis, biceps femoris, tibialis anterior, soleus, medial gastrocnemius, and lateral gastrocnemius muscles were recorded as spinal reflexes. The results showed that the spinal reflex amplitude of the tibialis anterior muscle was significantly increased in the High-threat condition compared to the Low-threat condition. In contrast, no significant differences in the spinal reflex amplitudes were observed in the other muscles among conditions. Our findings indicate that the fear of falling facilitates the excitability of spinal MNs in the tibialis anterior muscle during standing posture.

  • 木村 みさか, 山田 陽介, 吉田 司
    2025 年 46 巻 p. 116-127
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    COVID-19 (コロナ) 感染拡大防止のための外出制限や外出自粛などによる高齢者における身体活動が,コロナ以後の体力に与える影響を検討することを目的にした.対象者は,2023年10月の体力測定会参加高齢者414名 (男性74名,女性340名) である.調査項目は,体力および質問紙によるパンデミック時身体活動量である.パンデミック時に身体活動量が減少した者と維持していた者の間で体力値を比較したところ,平均値には差が認められなかった.すなわち,本対象者の体力は,パンデミック時に外出自粛等で一時的低下があったとしても,コロナ5類以降半年後 (2023年10月) には回復していたと考えられる.

  • 宮崎 輝光
    2025 年 46 巻 p. 128-136
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    ハムストリングス肉離れは,疾走動作中の遊脚期後半に発生する.特に,ハムストリングス構成筋の中でも,大腿二頭筋長頭での肉離れの発生が多い.そこで,本研究では,疾走動作中遊脚期後半における大腿二頭筋長頭の筋腱長の増減に影響する骨盤・下肢関節運動の特徴を角度入力による動作シミュレーションから明らかにすることを目的とした.40名の男性大学アスリートの走動作データを三次元動作計測した.そして,測定した走動作データをもとに,大腿二頭筋長頭の筋腱長を増加させた走動作および減少させた走動作を推定した.結果として,大腿二頭筋長頭の筋腱長の増減に対して,膝関節の屈曲伸展運動と骨盤の前傾後傾運動が最も影響することが明らかとなった.一方で,筋腱長の増減に対して,股関節の屈曲伸展運動の影響は少なかった.したがって,ハムストリングス肉離れの受傷リスク減少を目指すための走動作として,大腿二頭筋長頭の筋腱長を制御するためには膝関節の屈曲伸展運動および骨盤の前傾後傾運動の制御が寄与する可能性がある.

  • 越野 裕太, 石田 知也, 渡邊 謙太郎, 寒川 美奈, 遠山 晴一
    2025 年 46 巻 p. 137-143
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,drop vertical jump (DVJ) 中のアキレス腱張力に関係する前・中・後足部運動を解明することとした.運動経験のある健常者35名を対象とし,赤外線カメラおよび床反力計を用いてDVJを計測した.アキレス腱張力は足関節矢状面角度および底屈モーメントから推定した.また,前・中・後足部の三次元角度を算出した.DVJの着地相におけるアキレス腱張力最大値と各足部角度との関係を,相関分析および重回帰分析により評価した.アキレス腱張力と後足部外転は負の相関を示した (ρ=-0.355,P=0.036).また,後足部外転 (β=-0.523) と前足部外がえし (β=-0.445) が,アキレス腱張力に有意に関係する因子であった (R2=0.273, P=0.006).着地動作時のアキレス腱張力の増大には,後足部外転および前足部外がえしの減少が関係することが明らかになった.

  • 新野 弘美
    2025 年 46 巻 p. 144-156
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    後期高齢者を対象とし,バスキュラー (スタティック)・ストレッチングの継続実施による,柔軟性,血管内皮機能および動脈スティフネスに及ぼす影響を検討した.その結果,介入3ヶ月後は柔軟性の改善,血管内皮機能および動脈スティフネスにおいて有意な改善を認め,介入6ヶ月後ではさらに柔軟性の改善,血管内皮機能および動脈スティフネスにおいて有意な改善を認めた.しかしながら,6ヶ月間の脱介入後では,柔軟性,血管内皮機能および動脈スティフネスは介入前の状態に戻り,獲得した効果の可逆性を認めた.バスキュラー・ストレッチングの継続実施は柔軟性を改善し,抗動脈硬化の運動種目の一つとして貢献する可能性が示唆された.

  • 中村 雅俊, 野坂 和則
    2025 年 46 巻 p. 157-166
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    我々はこれまで最大負荷を用いた高頻度 (週5回)・伸張性収縮トレーニングを行うことで筋力増加・筋肥大効果が生じることを明らかにしてきた.本研究ではこの知見を拡大し,最大下の負荷量,つまり全力2/3および1/3の負荷量を用いた場合での高頻度・伸張性収縮トレーニングの効果を明らかにすることを目的とした.対象は健常成人大学生36名を無作為に2/3の負荷量でトレーニングを行う2/3群,1/3の負荷量でトレーニングを行う1/3群,トレーニングを行わないコントロール群にそれぞれ12名ずつ群わけを行った.2/3群および1/3群はそれぞれの最大伸張性収縮筋力の2/3および1/3の負荷量のダンベルを用いて1日6回,週5回,4週間のトレーニングを実施した.コントロール群はトレーニングを行わなかった.4週間の介入期間の前後で肘関節屈曲筋力および筋厚を測定した.その結果,2/3群では筋力および筋厚の有意な増加が認められたが,1/3群およびコントロール群では有意な変化は認められなかった.2/3群の筋力増加および筋肥大効果は,先行研究における最大負荷を用いた群と同程度であったため,高頻度・伸張性収縮トレーニングでは最大筋力の2/3以上の負荷量を用いる必要があることが示唆された.

  • 後藤 一成, 岡本 紗弥, 鈴木 妙実
    2025 年 46 巻 p. 167-174
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,重ね着を用いた3日間連続での持久性トレーニングが,暑熱環境下での運動時の体温調節能に及ぼす影響を検討することを目的とした. 男性陸上競技長距離選手9名を対象に,室温15℃環境で90分間のペダリング運動を3日間連続で実施した.この際,重ね着を用いて暑熱ストレスを課す条件 (着衣条件) と軽装 (半袖・短パン) を着用する条件 (通常条件) を設けた.3日間のトレーニング期間前後で,暑熱環境 (室温35℃) で40分間のペダリング運動を実施し (暑熱耐性テスト),運動時の体温調節能を評価した. トレーニング時の発汗量は,着衣群が通常群に比較して有意に高値を示した (P<0.05).トレーニング期間前後での深部温や血漿量の変化,暑熱耐性テスト時の発汗量や汗中ナトリウム濃度の変化には,いずれも条件間での有意差がみられなかった. 以上の結果から,重ね着を用いた3日間連続での持久性トレーニングによって,暑熱環境での運動時の体温調節能の改善は認められなかった.

  • 佐賀 典生, 佐保 泰明
    2025 年 46 巻 p. 175-183
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,片麻痺のパラアスリート1名 (陸上競技,立位・脳原性麻痺) を対象としたランニングフォームの特徴に関する事例を提示して,パラアスリートや指導者の一助となるような情報を提供することであった.対象者は,トレッドミルを用いた多段階漸増負荷ランニングテストを行い,酸素摂取量,呼吸交換比,換気量,心拍数,血中乳酸濃度を測定し,血中乳酸濃度が2mmol/L (LT) および4mmol/L (OBLA) 相当の走速度を求めた.対象者は求めた速度でランニングを行い,足圧測定および3次元動作分析を行った.その結果,足圧や足圧中心の軌跡に左右差が認められ,麻痺側では2峰性の足圧曲線となった.また,3次元動作分析により,腕を振る際の体幹部の回旋には左右差が認められた.本研究の結果より,片麻痺パラアスリートにおけるランニング動作は,麻痺側の影響を修正・抑制することによって,アシンメトリーな動作や回旋に対して,高いレベルで運動を調節している可能性が示唆された.

  • 古海 誓一, Seiichi Furumi
    2025 年 46 巻 p. 184-192
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    アスリートの関節における屈曲と伸展の状態をリアルタイムに可視化することは,パフォーマンスやスキルの向上において重要である.これだけでなく,怪我を負ったアスリートや身体が不自由になってしまった高齢者がリハビリを行うとき,関節の屈曲状態を色の変化で可視化できれば,怪我や病気の克服へのモチベーションに繋がるはずである. 本研究では,材料化学の観点から,バイオマスであるセルロースを原料にして,カラフルな反射色だけでなく,やわらかいゴム弾性も示す液晶材料 (以降,「セルロース液晶エラストマー」と呼ぶ) の分子デザインと合成を進め,サステナブルなひずみ可視化シートの創成を行った.たとえば,赤色の反射を呈するセルロース液晶エラストマー膜を透明なプラスチックスプーンで圧縮すると,押し付けた部分だけが赤色から黄緑色に変化した.一定の圧力が加え続けている間は黄緑色の反射を維持しているものの,力を取り除けばセルロース液晶エラストマーのゴム弾性により,速やかに元の赤色に回復した.この膜の変色において,圧縮の力と反射色の変化には相関があるため,セルロース液晶エラストマー膜が示す反射の変色を見れば,どの程度の力やひずみが加わっているか露見でき,多種多様なニーズに沿った新しいひずみ可視化シートへの応用が期待できる.

  • 藤本 知臣, 原 怜来, 馬場 康博, 松浦 由生子
    2025 年 46 巻 p. 193-200
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    ウェットスーツの着用が低水温下 (水温16-18℃) でのオープンウォータースイミング (OWS) 中の体温にどのような影響を及ぼすかは明らかではない.本研究では,①OWSスイマーの皮膚温度感覚特性および②ウェットスーツ着用がOWS競技中の深部体温に及ぼす影響を検討した.実験①では,OWS選手8名 (OWS群) および健常成人15名 (Control群) において皮膚温冷覚を測定し,OWS群でControl群よりも冷感受性が鈍い傾向にあった (P = 0.075).実験②では,OWS選手4名において低水温下 (水温15-16℃) におけるOWS中の深部体温をウェットスーツの着用の有無で比較し,OWS中の深部体温はウェットスーツ着用時に高かった (P = 0.046).これらの結果から,OWS選手は寒冷に強い傾向があり,ウェットスーツの着用により低水温下でのOWS中の深部体温低下を防ぐことができることが示唆された.

  • 天野 達郎, 加藤 はなの, 岡本 優美, 大塚 純都
    2025 年 46 巻 p. 201-208
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    衣服内環境を簡便かつ安価に評価するデバイスの開発は,熱中症予防等を目指した新たな衣服開発にとって重要である.本研究では,我々が開発した衣服内環境を評価する固定具の有効性を,屋外での運動時の測定から明らかにする.陸上競技部に所属する長距離選手11名が,全員同じ日程で夏季2日間の実験に参加した.研究参加者は開発した固定具をコロジオンで胸部と背部に貼り付け,衣服内温湿度を測定した.研究参加者は屋外で30分間の中強度ランニングを2セット実施し,1セット目は2日間とも一般的なポリエステル生地のTシャツを着用した (CON).2セット目は通気性の高い比較的新しい市販Tシャツ (Dry Aero Flow, DAF) あるいはCONを着用した.その結果,研究参加者全員において衣服内環境を測定することができた.1セット目の衣服内温湿度は条件間で差がなかったものの,2セット目の衣服内湿度はDAFがCONより低値を示した (全てP <_ 0.048,衣服の主効果).これらの結果は,本研究で開発した固定具は屋外における衣服内環境の測定に有用であることを示している.

  • 大谷 秀憲
    2025 年 46 巻 p. 209-220
    発行日: 2025/02/19
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,ファン付きベストの着用が夏季快晴条件下の屋外での高強度部活動練習時における高校生アスリートの持久性パフォーマンス及び熱中症予防効果に及ぼす影響について検証することを目的とした.被験者は高等学校サッカー部に所属する男性10名とした.被験者は8月下旬の快晴の日に,2時間のサッカーの練習を,ファン付きベストを着用した条件 (VEST) 及び着用していない条件 (CON) の2条件で,それぞれの別の日に同じ練習内容で実施した.平均皮膚温,心拍数,温熱感はVEST群がCON群よりも有意 (全てP<0.05) に上昇が抑制された.自覚的運動強度は,VEST群がCON群よりも有意な低値 (P<0.05) を示した.GPS測定による総移動距離は,VEST群がCON群よりも有意な低値 (P<0.05) を示した.本研究の結果から,高校生アスリートにおける夏季快晴条件下の屋外での高強度部活動練習時には,ファン付きベストの着用により体温調節系の負担が軽減し,熱中症予防に効果的であることが確認された.一方,ファン付きベストを着用した時は着用しない時と比べ,練習中の持久性パフォーマンスは制限される可能性が示唆された.

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