2020 年 36 巻 p. 1-12
滋賀県草津市の立命館大学びわこ・くさつキャンパス内にある鉱質土壌湿原(立命館BKC湿原)の珪藻植生を調査した。この湿原は,キャンパス建設以前からこの場所にあった湿原と,キャンパス敷地内の他の場所から表土ごと移植された2つの湿原から構成される。この場所本来の湧水に加えて汲み上げられた地下水の供給により涵養され,定期的なモニタリングと管理により植生が維持されている。試料採集と水質調査を2013年11月8日に行った。3つの採集地点の水質はいずれも弱酸性(pH 5.4–6.1)で,電気伝導度は地点間で大きく異なっていた(4.8–17.5 mS m-1)。ヌマガヤとオオミズゴケに付着する珪藻を採集して観察した。出現した計30属108種の珪藻(うち9種は種レベルで未同定)全てを,光学顕微鏡写真付きのチェックリストとして示した。出現種数が最も多かった属はPinnulariaで20種,次いでEunotiaが12種であった。珪藻の属の組成は琵琶湖集水域の泥炭湿地のそれとよく似ていたが,種組成はかなり異なっていた。これまで強酸性水域からのみ報告されてきたPinnularia osoresanensisなど,琵琶湖集水域の他の湿地環境から知られていない珪藻がいくつか見つかった。