道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
ギャッチアップ制限のある患者へ対する傾斜配膳台の工夫
高津 美百合森口 晴太髙野 渉澤田 裕也坂上 汀恵建部 奈緒子福地 るみ子嶋村 之利
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2025 年 8 巻 1 号 p. 66-70

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Abstract

整形疾患患者は骨折痛や術後疼痛の他、医師からの指示によりG-up制限下で入院生活を過ごさなければならないことがある。G-up制限がある場合、食事が視界に入らず食べにくさが生じてしまい、患者のQOLの低下、身体への影響や精神的な苦痛となってしまう。現在は傾斜配膳台を使用しているが、先行研究では限定的な角度のみの報告であるため、患者のG-up角度に合わせた傾斜配膳台の適切な角度を明確にすることで、食事への意欲向上と患者のQOLの向上が期待できると考え研究の題材とした。 被験者対象は認知症のない意思疎通が可能な患者、脊椎疾患及び大腿骨近位部骨折患者でG-up角度が30度から80度の食事摂取をしている男女、年齢不問とした。傾斜台を使用し、食後にアンケートを取りデータを収集、G-up角度を基準として傾斜台の組み合わせの満足点に対応のあるt検定を実施して、有意差の有無を確認する。傾斜台は10度~25度まで調整ができるものを作成し各条件として6項目を設けたが、25度では食事がこぼれるため、対象角度から除外し10度・15度・20度で研究を行った。食事時間は、どの角度の組み合わせでも有意差は認められなかった。アンケート結果から、平均値45度のG-upを基準としてG-upが45度より低い場合は、傾斜台の角度を10度より高くすると食事の見やすさ・食べやすさの評価は上がった。しかし、G-upが45度より高い場合傾斜台の角度が高いと食事は見やすくなるが、逆に食事摂取しにくく傾斜台で角度を付ける事が必ずしも食事がしやすくなるとは限らないという結果になった。  本看護研究の取り組みにより、ベッド上安静で制限がある患者の食事について考えることができ、食事が見やすい基準となる角度を見出すことができた。今回の結果から患者の食欲を引き出すためにはどのような援助が必要か、日々患者目線で考え、どのようなケアを必要としているのかを明らかにしていきたい。

第77回道南医学会大会道南医学会ジャーナル推薦演題

【要旨】

当科では、令和3年度の脊椎疾患患者は452名。大腿骨近位部骨折は38名であり、骨折痛や術後痛、医師からADL制限の指示によりギャッチアップ制限下で生活をしなくてはいけない状況になることがある。これらの状況下にある患者のギャッチアップ角度に応じた傾斜台角度を明確にすることにより、患者のQOL向上につなげていきたいと考えここに調査結果を報告します。

【はじめに】

脊椎疾患入院患者や大腿骨近位部骨折患者は骨折痛や術後疼痛の他、医師から日常生活動作の指示により頭側挙上(以下G-up)制限下で一時的に入院生活を過ごさなければならないことがある。

日々の関わりの中でG-upが十分に出来ない場合、テーブルに置かれている食事が視界に十分に入らず食べにくさが生じる。現状としては傾斜配膳台を活用して、食事を見やすく食べやすくする工夫を行っているが、患者によってG-up制限の角度が異なり、傾斜配膳台を使用しても食器が見えにくく、食べにくいという訴えがあった。

中村は「目隠しをして食事をするのがおいしくないように、料理を見ながら食べると安心感があり、食欲も出てくる」1) と述べており、食事が見えない、食べにくいことが食欲減退に繋がる要因になってしまうのではないかと考えた。また、食事が見えにくい状態では、箸やスプーンで器の食べ物を取るのは難しい。食事の際にこぼしてしまった事で寝衣や寝具が汚れ、患者へ本来必要のない援助を行ってしまう要因の一つとなってしまう。

傾斜台に関する研究として、荻原らの研究では「ベッドアップ30度・45度において、最も食べやすい傾斜配膳台の角度は23度である。」2) と報告している。この研究では、被験者が看護師であること、G-upの角度も決められて限定的な条件下の結果であった。また、G-up30度以下での傾斜台を用いて自力で食事を摂取することを目的とした角田らの研究においては「ギャッチアップ25度以下の時、お膳角度15度より20度・25度と上がったほうがより見え易く、食べ易い」3) と報告している。ただし、この研究も被験者は病棟スタッフであった。調べた限りではあるが、これまでの研究において患者を対象とした研究はなく、患者ではG-up可能な角度は異なり、別のG-up角度に対しての傾斜配膳台の角度は明らかになっていない。

手嶋氏は「口から食べることは単に栄養素を摂取するだけではなく、人間らしく生きる原点としてQOLという重要な意義を持っている。すなわちそれは、人に生きる喜びと悲しみを与え、人間としての尊厳を保つのである」4) と述べている。食事を摂りたい患者にとってG-up制限により十分に食事が摂れないことは生活の質の低下、食事摂取量低下による身体への影響、精神的な苦痛となる。本研究では、実践的な状況の中で、患者のG-up角度に合わせた傾斜配膳台の適切な角度を明確にすることを目的とし、患者に応じた傾斜配膳台の角度設定を行うことで食事への意欲向上と食事を通じて、患者の生活の質を高めることを期待出来ると考え、今回の研究の題材に取り上げた。

【Ⅰ.研究方法】

1. 研究期間

2022年12月21日~2023年7月31日

2.研究対象

被験者の条件として認知症がなく、意思疎通が可能な患者で脊椎疾患患者及び大腿骨近位部骨折患者でG-up角度30度から80度で食事を摂取している患者。男女、年齢不問とした。

3.データ収集方法

実際に被験者が傾斜配膳台を使用し食事を行った。食後にアンケートを行い、データを収集した。

4.データ分析方法

G-up角度を基準として傾斜台の各角度の組み合わせの満足点を対応のあるt検定を実施して有意差の有無を確認した。

有意差が無い場合には単純比較を行った。また、食事時間も調査してこちらも角度の組み合わせによって有意差がないかデータ分析を行った。

各条件として①~⑥のように設定した。

①実施時間は昼食時、食事形態は米飯または粥として、食事形態が大きく異なる麺やパンは「麺、パン禁」のオーダーを行い除外した。G-up制限の状況に変化がないように調査の実施は連続した4日間の日程で行った。なお、4日間のうち途中で日常生活動作が拡大し端坐位以上がとれる場合、看護師が残りの日数も協力してもらえるよう患者へ説明を行った。協力が得られるのであれば、昼食時のみG-upでの食事を行い調査続行とした。

②10度から25度まで5度間隔で角度の調整できる傾斜配膳台を作成し使用した。詳細として当病棟で使用していた木製で傾斜部分に滑り止めが付いた既存の傾斜配膳台にボルトを打ち込み、ネジを通して高さを変更する事で傾斜部分の角度を変更できるように改造したものを使用した。10度から25度まで変更がしやすいようにあらかじめネジを伸縮させて傾斜台の角度を測定し油性インクでマーキングを行った。ベッドサイドテーブルの高さは荻原らの研究の結果から一番見やすい乳頭ライン5) で統一した。被験者一人につき各角度の試行回数は1回とした。

③G-up角度の測り方は、患者の頭の位置をマットレスの頭側の端に来た状態でG-upによる疼痛が自制内でコントロールできる最大角度までG-upを行った。角度計でG-upの角度を測定してベッド柵にマスキングテープで印をつけ、誰でもG-upの角度が同じになるようにした。調査期間中の昼食時は初回測定の角度から変更はしないこととした。

④G-up側の角度は5度ずつでグループ化した。ただし、グループの角度の上限値に関して、次のグループの角度の最小値と重複しないように角度の上限値は次の大きい角度のグループの最小値未満とした。G-up角度の下限値は30度、上限値は80度として6つのグループとした。

⑤アンケートの集計について、主食は米飯、粥に分け、副食は常食、軟菜、きざみ、極きざみ、ペーストにわけて集計した。アンケート内容は「食事の食べやすさ」「食事の見やすさ」の2項目とする。データ尺度として、視覚的アナログスケールを指標とし、アンケート用紙に10cmの横線を引き、そこへ被験者に縦線を入れるよう依頼して満足点の計測を行った。1mmを1点として最小値0点、最大値100点とした。対象となる患者には10度から25度までの傾斜台で各角度1回ずつ、計4回実際に食事を行ってもらい、各角度でアンケートを行いデータ収集した。また、看護師側で各角度での食事時間を測定して各角度で食事時間に差がないか調べた。分単位の計測として秒単位は切り捨てとした。被験者の多くが高齢者であることが予想されるため、病棟スタッフが口頭で質問用紙を説明し、不明な点は補足説明を行った。なお、補足説明を行うことで収集したデータにバイアスが生じないようにするため、説明内容は質問用紙の書き方のみとした。身体の状態により記入が困難な場合のみ、用紙を見せて被験者に該当する部分に指で示すよう依頼し、看護師が代行して記入を行った。

⑥頚椎疾患患者で外固定具を使用している患者は頚椎の可動域や開口の制限が生じるため頚椎外固定をしていない被験者と分けてアンケート集計した。

5.倫理的配慮

被験者へ本研究の目的、方法、プライバシーの保護、データの管理、同意の有無にかかわらず不利益が生じないことを質問用紙に記載及び口頭で説明し用紙回収をもって同意したとみなした。

【Ⅱ.結果】

本研究を行うにあたり傾斜配膳台の角度は先行研究を元に10度、15度、20度、25度としていたが、当院の食器では25度の際に食事がこぼれるため、対象角度から除外し10度から20度の3段階での範囲で研究を行った。研究対象となった患者のG-upの角度は20度が3名、25度が2名、45度が2名、50度が2名、60度が6名の計15名となった。15名すべて食事の形態については、主食は米飯、副食は常食だった。頚椎疾患患者はいなかった。(表1)(表2)データ分析では、G-up20度で傾斜台10度と20度、傾斜台15度と20度の食べやすさと見やすさの満足点には有意差があった(表4)(表5)。食事時間に関してはすべての組み合わせで有意差は認められなかった。単純比較において、食べやすさの項目ではG-up50度から60度で傾斜台の20度の場合では他群と比べて満足点が顕著に低く、G-up20度で傾斜台20度の場合では他群と比べて満足点が顕著に高い結果となった。見やすさの項目では、各G-upの角度と傾斜台角度の組み合わせで傾斜台角度が高くなるほど満足点の上昇がみられG-up角度が低くなるほど満足点の上昇の上り幅が大きくなった。食事時間に関しては、ばらつきはあるが概ね平均的であった。(図1)(図2

【Ⅲ.考察】

有意差の観点からみるとG-up20度で傾斜台10度と20度、傾斜台15度と20度の食べやすさと見やすさの満足点において有意差がありG-up角度が低い場合は傾斜台の角度を高くすると食べやすく見やすいことが推察される。ただし、他の有意差が無いデータも含めてサンプル数の母数が少ないため母数が増えた場合には異なる結果となる可能性がある。

食事のたべやすさについてはアンケート結果からの平均値から、45度のG-upを基準として、45度から下の角度の患者は傾斜台の角度が上がるほど食事摂取がしやすくなっていると考えられる。逆に45度から上の角度の患者は角度が上がるごとに食事摂取がしづらくなっていると考えられる。G-upと傾斜台の角度によっては角度がつくことで食べ物を掬いづらい食べづらさの原因となる要素が生じる可能性があり傾斜台で角度を付けることが必ずしも食事がしやすくなるとは限らない。食事の見やすさはG-upの角度に関係なく、傾斜台の角度が高くなるにつれて見易くなっている。しかし、G-up患者の食事の見易さは傾斜台の角度が20度の場合評価が60~100と範囲が広いため、患者の疾患、疼痛状況、患者自身の好み等さまざまな要因で分かれてしまっていると考えられる。食事摂取の時間については、15名の患者全員が平均的な時間で摂取されており、患者のG-upの角度、傾斜台の角度は関係なく摂取されていると考えられる。

【Ⅳ.結論】

1. G-upが45度より低い場合は傾斜台の角度を10度より高くすると食事の見易さ、食べやすさの評価はあがっていく。

2. G-upが45度より高い場合は傾斜台の角度が高いと食事は見やすくなるが、逆に食事摂取しにくい。傾斜台で角度を付けることが必ずしも食事がしやすくなるとは限らない。

【おわりに】

今回の研究でベッド上安静でG-upに制限がある患者の食事について改めて考え、患者が食事傾斜台を活用した場合のおおよその食べやすく、見やすい角度を見出していくことができた。結果をもとに、日常の看護に活用し、患者のより良い療養生活につなげるよう努力していきたい。

【利益相反】

本論文に関し、利益相反はありません

表1

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表2

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表4

表4

表5

表5

図1

図1

図2

図2

【引用文献】
  • 1)  中村丁次.治療-栄養-看護:食をめぐる三位一体のはたらきかけをするために,看護学雑誌1999;63(1):10-15.
  • 2)    荻原 祐樹, 本間    昌, 金山 千佳子,他.食べやすい傾斜配膳台の角度とオーバーテーブルの高さおよびその組み合わせ-ベッドアップ30度・45度での検証-,日本看護学会論文集 成人看護2,2010;41:266.
  • 3)    角田 康子, 神田 さほり, 上田 由美,他.ギャッチアップ30度以下での自力食事摂取への工夫-食事補助台を活用して-,日本看護学会論文集:看護総合,2005;36:417-419
  • 4)  手嶋登志子.高齢者のQOLを高める食介護論:口から食べるしあわせ,日本医療企画,東京2006:9
  • 5)    荻原 祐樹, 本間    昌, 金山 千佳子,他.食べやすい傾斜配膳台の角度とオーバーテーブルの高さおよびその組み合わせ-ベッドアップ30度・45度での検証-,日本看護学会論文集成人看護2,2010;41:266-268.
 
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