日本土壌肥料学雑誌
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茶園土壌中のアルミニウム・リンおよびマンガンの挙動
後藤 逸男小林 功子蜷木 翠
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1994 年 65 巻 5 号 p. 538-546

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抄録

全国でも有数のチャの生産地である静岡県島田市権現原周辺において,茶園土壌中でのアルミニウム・リンおよびマンガンの挙動を明らかにする目的で土壌診断および新芽の無機成分分析を実施した.1989年5月に10農家21茶園のうね間から表層および下層土を採取した.7,10月にも同茶園より土壌を採取し,理化学性の経時変化を調べた.また,10月には土壌型の異なる2茶園とそれらに隣接する未耕地土壌について主成成分分析を行った.新芽については一〜三番茶を無機成分分析に供した.対象茶園の年間施肥量は N:1000〜1500,P_2O_5 : 350〜550,K_2O : 600〜900 kg ha^<-1>,石灰資材施肥量は 800〜1400 kg ha^<-1> であった.調査茶園は非火山性黒ボク土(n=12)と黄色土(n=9)に分類された.表層土の pH(H_2O) は平均 3.5 と低く,石灰施用後でさえ,4.0以上の茶園が多かった.交換性カルシウム,マグネシウムは約半年で半滅し,強烈な塩基の溶脱を示唆している.可溶性アルミニウム(Al_2O_3)は 1.2 g kg^<-1> と未光地土壌の 1/10 以下にすぎなかったが,全アルミニウムはほぼ同等であった.一方,可給態リン酸は年間を通じて 2 g kg^<-1> 以上と高く,また全リン酸は 20 g kg^<-1> 以上に及んだ.新芽中のアルミニウムは従来の文献値より低く,りんとアルミニウムの間に高い負の相関性が認められた.すなわち,可溶性のアルミニウムの低下は「過剰施肥リン酸による土壌中のアルミニウムの固定」ともいえる現象である.易還元性マンガンは平均 11 mg kg^<-1> にすぎず, pH (H_2O) との間に有意な正の相関性が認められた.黒ボク土茶園表層の全マンガンは下層あるいは未耕地表層より低かったことから,易還元性マンガンの低下は土壌の極端な酸性化に伴うマンガンの溶脱に起因すると考えられる.以上のように調査茶園のうね間部分では肥料の多量施用が,土壌中のアルミニウムとマンガンの挙動に影響を及ぼしている.

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© 1994 一般社団法人日本土壌肥料学会
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