日本土壌肥料学雑誌
Online ISSN : 2424-0583
Print ISSN : 0029-0610
土壌タイプによるテンサイ根系分布の違いが収量の年次変動性に及ぼす影響
林 茂樹伊藤 博武松山 英里子小松 輝行
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 76 巻 3 号 p. 299-311

詳細
抄録

テンサイの収量性が高い網走市東部地区(淡色黒ボク土)と低い西部地区(多腐植質黒ボク土,褐色森林土)の間で生じている収量格差が年次間で伸縮する要因について気象要素から検討した。1)8月の気温と東西地区間における収量格差(根重,糖量)の間には有意な正の相関が認められた。土壌タイプにかかわらず,8月の気温が高い年次にはHI(収穫指数)が増加した。それに対し,全量は高温年に減少する傾向にあり,その低下の割合は土壌タイプ間で大きく異なっていた。このため,高温年に全重の低下が小さい東部地区の淡色黒ボク土は根重が増加するのに対し,全重が著しく低下する西部地区の褐色森林土では高温年に根重が減少する傾向にあった。西部地区の多腐植質黒ボク土の気温に対する全重と根重の応答反応はこの中間であった。2)光合成速度と密接な関係にある気孔開度の高温晴天時における日中低下についてみると,深い根系を持つ淡色黒ボク土では日中気孔がよく開いているのに対し,浅い根系を持つ褐色森林土では著しく気孔を閉じる傾向にあった。根系の深さが中程度である多腐植質黒ボク土の気孔開度はこの中間値であった。それに対し,気温があまり高くない条件下では,土壌タイプ間での気孔開度の格差は極めて小さかった。以上より,根系分布の違いに起因した高温時における光合成能力の差が,異なる根重の応答を生むため,特に8月の気温が高い年次ほど東西地区間(土壌タイプ間)で収量格差が大きくなると推察された。

著者関連情報
© 2005 一般社団法人日本土壌肥料学会
前の記事 次の記事
feedback
Top