日本土壌肥料学雑誌
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リン酸緩衝液抽出による水田での各種堆肥の窒素分解パターン予測とその検証
瀧 典明熊谷 千冬齋藤 公夫
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2009 年 80 巻 6 号 p. 575-582

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抄録

宮城県内で製造される各種家畜ふん堆肥の窒素分解パターンが速水(1985)らの提案する分解モデル式で近似できるか確認するとともに,4種類の方法により堆肥から抽出される有機態窒素割合と分解モデル式の係数との関係を検討した.さらに,得られた関係式による他の堆肥の分解パターンの予測精度を検証し,予測に基づく水稲栽培への活用を検討した. 1)ほ場埋設法によって家畜ふん堆肥13種類の水田における窒素分解パターンを調べたところ,埋設後約2ヶ月(積算気温で概ね1.0×10^3℃)の分解率は鶏ふん主体>豚ぷん主体≧牛ふん主体の順であった.また,全ての堆肥で積算気温1.0×10^3℃付近を過ぎると徐々に分解速度が遅くなる傾向を示した. 2)分解パターンをモデル式D=eT^r(D;窒素分解率%,e;分解加速度係数,r;分解難易度係数,T;積算気温×10^<-3>)に当てはめた結果,全ての堆肥で決定係数0.93以上の高い精度で適合した.さらに,分解の進行が緩慢になるおおよその変曲点である積算気温1.0×10^3℃,すなわちT=1のときDとeは同じ値となることから,分解加速度係数は易分解性の有機態窒素割合を示す値と考えられた. 3)分解加速度係数と分解難易度係数の関係はy=2.1x^<-0.77>の関係式でよく近似できた. 4)堆肥からリン酸緩衝液で抽出された有機態窒素割合は6〜42%(全有機態窒素当たり%),同様に希硫酸では3〜31%,熱水は18〜48%,酸性デタージェントは32〜65%と大きく異なった. 5)抽出窒素割合と分解加速度係数との相関係数はリン酸緩衝液でr=0.97と最も高く,抽出窒素割合と係数の関係も概ね1:1であった.このことから,リン酸緩衝液で抽出される有機態窒素割合がほ場条件で分解しやすい窒素割合に最も近いと考えられた. 6)原料の異なる堆肥3種類の実測分解パターンは,分解モデルからの予測パターンとよく適合した.分解率の実測値と予測値の平均二乗平方根誤差(RMSE)は2.4〜2.7であった. 7)堆肥3種類の予測分解モデルを用いて水稲の穂揃期までの堆肥由来窒素供給量を算出し,化学肥料と同じ窒素供給量になるように堆肥を施用したところ,化学肥料並みからやや低い稲体窒素吸収量および精玄米重となった.

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© 2009 一般社団法人日本土壌肥料学会
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