日本土壌肥料学雑誌
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土壌特性・土層構成に基づく利根川流域内農耕地における硝酸イオンの地下水到達時間の面的推定
坂口 敦加藤 英孝家田 浩之中野 恵子
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2013 年 84 巻 2 号 p. 90-99

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抄録

農耕地から溶脱した硝酸イオンの地下水到達時間は,土壌・地形および気象的要因により大きく異なりうる.利根川流域内の水田を除く農耕地を対象として地下水到達時間の面的予測を行った.土層構成が既知の213地点について,浅層地下水位,年間の正味浸入水量および体積含水率と遅延係数の土壌断面内分布を推定し,ピストン置換を仮定して,土壌表面に存在した水および硝酸イオンの浅層地下水面への到達時間を求めた.浅層地下水位および正味浸入水量は,流域内における地下水位実測値および年降水量と可能蒸発散量の値から補間により求めた.各地点での断面内体積含水率分布は,流域内の分布上層を15種類に類型化し,代表的な水分保持曲線にvan Genuchtenの式を適用して水分保持・不飽和透水パラメータの値を求め,年間正味浸入水量に相当する水が定常浸透するとした時の分布をHYDRUS-1Dを使って推定した.吸着による遅延係数は,硝酸イオン最大吸着量が吸着態硫酸イオン含量に比例すると仮定して求めた.得られた地下水到達時間は補間し,利根川流域内での面的分布を求めた.予測した硝酸イオンの地下水到達時間は約0.4〜31年の範囲にあった.到達時間に支配的な影響を与える要因は地域により異なり,群馬県内および鬼怒川中流域では正味浸入水量が小さく,体積含水率および遅延係数の大きい土層が厚く堆積しているために到達時間が長いのに対し,栃木県西部山岳辺縁域では正味浸入水量が大きく,地下水泣が高いために到達時間が短いなどの傾向が認められた.難透水性の常総粘土層への到達時間をもって地下水到達時間とした利根川中下流域では,硝酸イオンの地下水到達時間も短かった.これは,降雨時に浸透水の水平方向への流出がみられることに対応する.これらの結果から,土壌・施肥管理の変化の影響が浅層地下水水質の変化となって現れるのに要する時間には大きな地点間差があると予想される.環境保全的な農法の地下水水質に対する効果を評価するには,これらの点を考慮することが必要である.

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© 2013 一般社団法人日本土壌肥料学会
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