京都大学附属農場の水田で無施肥栽培を行い,施肥停止後5年間(2010~2015年)の土壌肥沃度の推移と水稲の生育制限要因を調べた.圃場内に植栽区と無植栽区を設置し,水稲の作付前後に表層土壌を採取した.2012年には作付期間中にも土壌と植物体を採取した.そして土壌の理化学性と水稲の養分吸収量や粗籾収量を測定した.その結果,各年の粗籾収量は551~639 g m−2となり比較的安定していた.一方,土壌の可給態窒素・全窒素・非交換態カリウム・粗大有機物の含量は,植栽区と無植栽区で施肥停止3年目の収穫後から有意に減少しはじめた.作付期間中には土壌のアンモニウム態窒素と交換態カリウムのみが水稲生育に応じて減少した.さらに水稲の生育制限要因を評価するために2013年に窒素とカリウムの被覆肥料を用いた施肥試験をポットと試験圃場で行った.ポット試験では蒸留水を用いることで灌漑水質を制御した.試験圃場の灌漑水質も計測した.その結果,水稲の生育制限要因は,ポット試験ではカリウム,圃場試験では窒素となった.無施肥栽培によって土壌はカリウム制限を引き起こす水準に至ったが,圃場では灌漑による供給によってカリウム制限が解除され,窒素制限が生じていたと考えられた.これらの結果を既存の知見と比較した結果,無施肥水田の表層土壌の全窒素含量は粒径組成,カリウム供給能は灌漑水質の影響を強く受けていることが示唆された.