2020 年 91 巻 4 号 p. 217-227
牛糞堆肥の土壌中での窒素動態を総合的に把握し,その連用による長期的影響を予測するため,埋設型キャピラリーライシメータを設置した黒ボク土露地野菜畑において,牛糞堆肥を10年間連用し,窒素溶脱量および作物による吸収量を測定した.また土壌内の堆肥由来窒素動態をモデル化し,室内培養実験結果からモデルのパラメータを設定し,堆肥中の難分解性有機態窒素の易分解化,易分解性有機態窒素の無機化,無機態窒素の有機化および脱窒をモデル計算によって推定した.圃場で測定した結果,10年間の作物体窒素吸収量は,堆肥無施用で57.9 g m−2,1 kg m−2 y−1連用で81.1 g m−2,2 kg m−2 y−1連用で112.0 g m−2と,施用量に応じて増加したのに対し,窒素溶脱量は,それぞれ41.4, 35.0, 68.0 g m−2と,2 kg m−2 y−1連用で大幅に増加したものの,1 kg m−2 y−1連用ではやや低下した.一方,モデル解析の結果,10年間の堆肥由来窒素無機化量は,1 kg m−2 y−1連用で34.0 g m−2,2 kg m−2 y−1連用で65.5 g m−2,また脱窒量は,それぞれ62.3, 119.8 g m−2と,いずれも堆肥施用量に応じて増加した.以上のように,本研究では,圃場での実測とモデル計算により,適正な堆肥施用は窒素溶脱量を増加させずに作物による窒素吸収量を増加させることを明らかにした.