近年,農耕地の土壌pHの低下が指摘され,土づくり資材施用の重要性が再認識されている.一方,土づくり資材施用による水田の土壌pHの変化は,稲わらの分解や温室効果ガスであるメタンの発生量に影響すると考えられる.そのため,稲わらが秋に散布され,春にすき込まれる積雪寒冷地水田において,資材添加による土壌pHの変化がこれらに及ぼす影響を2ヵ年調査した.処理区は,硫黄資材を用いて土壌pHを5程度に低下させた低pH区,炭酸カルシウムで土壌pHを7程度に上昇させた高pH区とし,無処理区(土壌pH 5.5)と比較した.資材で土壌pHを変化させた後,10月から翌年4月までの稲わら分解率は,高pH区>無処理区>低pH区の順で高くなった.メタン発生量は高pH区>無処理区>低pH区の順で多くなった.低pH区におけるメタン発生量の減少は,硫酸還元の影響が大きいと推察された.高pH区では他区に比べ土壌Ehの低下が早くメタン発生量が増加した.水田からのメタン発生量は稲わら腐熟の程度より,供試した資材に含まれる成分の影響をより強く受けていた.土づくりにあたっては多様な資材があるが,個々の資材について水稲の生育,メタン発生量を総合的に判断し,検証することが今後必要である.