日本土壌肥料学雑誌
Online ISSN : 2424-0583
Print ISSN : 0029-0610
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窒素問題へのシステム思考の超学際的応用—問題の自分事化の促進および食料システムにおける変化の理論の探索—
林 健太郎 棚橋 弘季浦野 奈美岡田 小枝子菊竹 栄杜京井 尋佑後閑 裕太朗齋木 真琴柴田 幸子竹腰 麻由田根 佐和子三輪 彩紀子山田 富久美
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2025 年 96 巻 2 号 p. 136-148

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抄録

肥料などの窒素利用が多様な窒素汚染をもたらすトレードオフを窒素問題と称する.その解決には問題に対する関係者間の共通認識が先決ながら,窒素問題への認識は広く浸透していない.そこで本研究は,窒素問題の専門家と非専門家がともにシステム思考を用いて議論し,窒素問題の認識浸透を図るアイデアを得ることを目的とした.システム思考とは,対象とする問題が包含する要素間の複雑な相互作用を動的システムとして捉える考え方である.複雑な問題の全体像の把握には可視化が有効であり,本研究ではループ図を用いた.ループ図とは,対象とするシステムを構成する主要な要素の因果関係および正・負のフィードバック構造を図化したものである.窒素問題を10個のサブシステムに分けてループ図を検討した上で,主対象を「食品産業・食生活」サブシステムに絞って精緻に検討し,窒素問題の認識浸透に有効と思われる4つの戦略,すなわち,①多様なステークホルダーに伝えるコンテンツ,②食品ロス削減・脱炭素などの既往の取り組みとの連携,③自治体の取り組みにルール作成の段階から連携,および④取り組み効果の可視化ツール,を抽出した.本研究では,参加者それぞれに窒素問題の自分事化および言語化を促し,参加者間の相互理解を促す効果がみられた.すなわち,システム思考には,多様なステークホルダーがアイデアを共創する利点がある.

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© 2025 一般社団法人日本土壌肥料学会
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