抄録
海洋に流出した漁網等によるゴーストフィッシング問題の解決の一っとして生分解性漁網の利用が検討されている.海水中における生分解性プラスチックの分解性に関する研究は少なく, 特に深海域における分解性についてはほとんど知見がない.本研究では, 富山県水産試験場の深層水汲み上げ施設の飼育水槽 (流水式: 常圧, 平均水温0.6℃) 中で, 生分解性プラスチックのポリカプロラクトン (PCL) モノフィラメントの浸漬試験を行い, 深層水中における生分解性の評価を行った.0.6℃ の深層水中に浸漬したPCL (110デニール) の強度は浸漬時間とともに大きく低下していき (1ヶ月で約20%, 6ヶ月で約65%低下), 8ヶ月後には強度はほぼ0にまで低下していた.電子顕微鏡観察結果より, 浸漬時間とともに繊維表面に小さな円形の穴が多数生じているのが認められた.繊維表面上に見られる円形の穴は浸漬水中に存在する微生物 (プラスチック分解菌) による分解の進行にともなって起こったものと推測された.これらの結果から, 生分解性プラスチックが低温の海洋深層水中で十分に分解することが確認され, ゴーストフィッシング軽減にっながることが示唆された.