本論文の目的は、企業制度の仕組みが如何に従業員の印象管理（impression management）に影響を及ぼすのか、解明することである。多くの既存研究は、従業員個人の観点から印象管理を分析するケースが多く、彼らの行動に影響を及ぼすと思われる企業制度に関する研究が限られていた。本論文では、香港における日系小売業（Ichi とする）のエスノグラフィーを事例に、企業の昇進制度が現地従業員の印象管理に及ぼす影響を考察する。その結果、本研究では主に四つの発見があった。第一に、現地従業員の印象管理は、一貫しておらず、彼らが如何に企業の求める人材像を理解しているのかによって変動する。第二に、現地従業員の印象管理が意図的か否かは、一概に言えず、該当の企業がもつ理念や戦略を理解したうえで、分析する必要がある。第三に、現地従業員の印象管理を分析する際、香港の慣習や信条を理解する必要がある。最後に、現地従業員による印象管理の有無にかかわらず、評価する側が如何に企業昇進の制度を理解しているのかによって、その結果を左右することがある。このように、本研究では、印象管理を分析する際、企業制度に限らず、ローカルの文化やそのコンテクストといった外部的要因の重要性も考慮する必要があることを示唆している。
