応用生態工学
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河川の健康を守る―人間の健康維持の実戦経験から学ぶ
James R. KARREriko MORISHITA ROSSANO
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2001 年 4 巻 1 号 p. 3-18

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抄録

河川環境は人間の活動によって大きく変化する.原因を取り除き,健康な河川に戻すことが大きな課題である.この課題へのアプローチを,河川が抱えている問題をこれまで人間が長く対処してきた健康維持の実践経験にあてはめて考えた.すなわち,1)次々に変化する健康への脅威を理解し対処する,2)二次感染など予期しなかった病原の発生を食い止める,3)予防と治療を大切にする,4)病気の克服には包括的にかつ系統だった対策を講ずることが考えられる.これらから,人間活動とそれによってひきおこされる河川の健康状態の変化を総括的にとらえる視点が必要であることが教訓として得られる.そのために,人間活動が河川の健康状態を改変する視点として,次の5点:生息場所の構造,流量の季節変化,食物源,生物間の関係,水質汚濁(Fig.1)を取り上げた.さらに,河川がどの程度健康であるかを診断するための,解りやすくかつ強力な手法の開発も必要である.水環境カルテ(index of biological integrity for Japanese streams, IBI-J)は,河川の状態を総括的に測り,健康状態を損なう原因を提案する指標である.IBI-Jを使った研究例から,河川の健康状態を損なう要因として,排水の量と種類,ダムなどの構造物との距離,河畔植生の有無などが重要であることが示唆された.これらは,生物化学的酸素要求量(BOD)などの単一の視点だけに立脚して河川管理を進めることの危険性を指し示す(Fig.6).IBI-Jのような生物学的環境評価法は,人間が河川をどう扱うかを決める際の多分に文化的な過程に対して科学的な情報提供をするための枠組みとして重要である.

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