応用生態工学
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最新号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
短報
  • 佐々木 進一, 井上 幹生, 東垣 大祐
    2025 年27 巻2 号 p. 77-85
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/31
    [早期公開] 公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    愛媛県松山市近郊を流れる重信川の中流域には,霞堤の遊水地を利用して造成した「広瀬霞」と呼ばれる沼状の自然再生水域がある.重信川本流からこの広瀬霞に移入する魚類を調査していた 2023 年 7 月 1 日に,大規模な出水が起こり,その際に本流から広瀬霞へと遡上移入した魚類を採捕・記録することができた.本報告では,この出水による移入魚類データを,2015 年 6 月-2016 年 10 月の期間中の 152 日にわたって実施された継続観測データと対比させることにより,この大規模出水時に見られた特異的な魚類の移入について記載した.継続観測データによれば,通常時の移入個体数は 1 日あたり数個体から 20 個体程度であったが,この出水時には 2 日間で 503 個体であり,通常時の 10~100 倍の数に上った.また,通常時の移入ではタカハヤ,オイカワ,シマヨシノボリといった河川本流に生息する魚種が主体であったが,この出水時に遡上移入した魚種は,多い順にタカハヤ(383 個体),タモロコ(49 個体),フナ類(44 個体),モツゴ(12 個体)と,通常時とは大きく異なっていた.特にタモロコとモツゴは,2015-2016 年の 18 か月間 152 回にわたる継続観測において一度も採捕されたことがない種であるという点で極めて異例であった.また,フナ類についても,通常時はほとんど採捕されない種であり(継続観測時の最大採捕数は 4 個体),この出水で採捕された 44 個体という数は異例な多さであった.さらには,これらの種の移入源は重信川本流ではなく,溜池などの河川周辺水域を源に,重信川本流を介して広瀬霞に移入したものと考えられた.今回のデータは,大規模出水が,淡水魚類の分布域を拡大させる自然要因としてはたらくことを明示する事例となった.

事例研究
  • 一瀬 弘道, 青木 俊汰郎
    2025 年27 巻2 号 p. 87-96
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/31
    [早期公開] 公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    風力発電機 16 基の設置前,設置直後及び新規の風力発電機の更新前(既設風力発電機設置 18 年後)の各段階においてクマタカの現地調査を実施した.既設風力発電機の設置前はクマタカ 2 つがい,設置直後は 3 つがいが確認され,更新前の段階では 4 つがいの生息が確認された.更新前の調査では,4 つがいのうち 2 つがい(A,B つがい)で繁殖成功が確認された.他の 2 つがい(C,D つがい)については,ディスプレイや交尾,餌運び等が確認されながらも,繁殖成功は確認されなかったが,生息や繁殖活動が継続的に確認された.更新前の段階で確認されたつがいのうち,A つがいは営巣場所から 553 m,C つがいは 925 m の距離に既設風力発電機があり,A つがいでは繁殖成功も確認された.また,営巣中心域には,A つがいが 2 基,C つがいが 5 基の既設風力発電機を含んでいた.このことは,クマタカが風力発電機と共存しうる可能性を示唆した.

  • 安藤 義範, 芳之内 祐司, 浜口 恵子, 小田 友之, 頼田 匡平, 石川 愼吾
    2025 年27 巻2 号 p. 97-108
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/31
    [早期公開] 公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    高知県宿毛市に位置する横瀬川ダムの建設事業に伴い,水田生絶滅危惧植物を対象とした保全対策を実施した.水田生絶滅危惧植物が生育していた水田の表土をビオトープへ移植し,水稲を栽培しない状態で,耕起,代かき,湛水などを行った.2020 年~2021 はビオトープの漏水によって湛水状態が維持できず,代かきが行えなかったこともあって,水田生絶滅危惧植物は 1 ~ 4 種が生育するにとどまった.2022 年は維持管理前に漏水対策を行い,ビオトープの湛水状態が維持でき,十分な代かきを行ったところ,ミズネコノオ,ミズマツバ,ミズキカシグサ,スズメノハコベ,クロホシクサ,マルバノサワトウガラシの 6 種が生育し,水田生絶滅危惧植物の保全に関する維持管理の効果が確認できた.

  • 加藤 憲二, 久保 篤史, 宗林 留美, 岩田 智也, 知花 武佳, 大場 浩樹, 岩越 俊樹, 真鍋 尚司, 竹内 昭浩, 中田 篤史, ...
    2025 年27 巻2 号 p. 109-118
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/31
    [早期公開] 公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    狩野川は伊豆半島中央部の天城山系を源流とし,富士山麓に向かって伊豆半島を北上し駿河湾に流れ込む幹川流路延長約 46 km の一級河川である.集水域の年間降水量は上流域の湯ヶ島観測所で平均 2,830 mm に達する.1990 年から 2019 年にかけて過去 30 年間の狩野川の水質変化について公開データを対象に解析した結果,有機物汚濁を示す指標である BOD の値に上流から下流にかけて検討されたすべての地点で明らかな減少傾向が認められた.COD や SS の減少傾向にもこれと矛盾はなかった.測定された他の水質成分である pH と DO の変化から,有機物汚濁の減少傾向を河川内部の要因に帰すことには無理がある.これに対し,集水域における下水処理が BOD の減少をもたらしたと考えることが自然であり,中・下流域の人口稠密地帯を対象とした下水処理施設の稼働の進展などに因ると推察された.

  • 松澤 優樹, 森 照貴
    2025 年27 巻2 号 p. 119-129
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/31
    [早期公開] 公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    北米原産の外来魚であるコクチバスは,近年日本国内で分布を急激に拡大しており,侵入した河川における生態系への悪影響が懸念されている.そのため,侵入した河川において駆除が実施されているが根絶に成功した例はない.コクチバスは規模の大きい河川を選好することから,駆除を実施するにあたり,どこまで分布していて,個体数密度が高い場所はどこか明らかにすることは駆除をより効率的に進めるために必要である.そこで本研究では,三重県櫛田川において,環境 DNA を用いることで,櫛田川本川におけるコクチバスの流程分布と支川への侵入状況を明らかにした.環境 DNA 調査は夏季(2021 年 8 月 30-31 日,2022 年 9 月 12-13 日) と冬季(2021 年 1 月 27-28 日,2022 年 2 月 8-9 日)に計 4 回実施した.櫛田川本川では河口約 1 km から 40 km の範囲でコクチバスの環境 DNA が検出され,最上流検出地点は全ての調査で変化しなかった.最上流検出地点の上流には堰があることから,堰がコクチバスの分布拡大を制限している可能性が示唆された.比較的規模の大きい支派川では再生産している可能性が高く,規模の小さい支川においても夏季に環境 DNA が検出されたことから一時的ではあるが,侵入し ている可能性がある.よってコクチバスが河川に侵入した場合,支川も含めかなり広範囲に分散・定着することが示された.広範囲にわたる駆除はコストも大きく,根絶が困難である.そのため,外来種を水系に入れないこと,そして個体数が少ないタイミングで駆除をすることが河川における外来種管理において最も重要である.

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